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ASJ Works Close-up

周囲の豊かな自然とともに家族とのおおらかな時間を紡ぐ家

茨城県那珂市

後台の家

設計 久保田章敬建築研究所
施工 ASJ水戸スタジオ[株式会社葵建設工業]

まず目に飛び込んでくる“読書の間”が、S 邸の居心地の良さを決定的なものとしている。

土地探しの段階から、水戸スタジオや久保田さんに相談しながら進めたというSさんの家づくり。①

家づくりのきっかけは一人の建築家との出会い

 のどかな田園風景の中に溶け込むように建てられたこの家は、Sさんご家族五人が暮らす新居である。玄関を開ければ、まず目に飛び込んでくるのは、南面に広がる田園風景とご夫妻の蔵書や三人のお子様たちの絵本が納められた〝読書の間〞。そして、畳敷きの〝ギャラリー〞の先には、当初からの要望の一つだったカラフルな色使いが施された〝食事の間〞と〝夫婦の間〞がそれぞれに配置され、〝食事の間〞の奥には遊び心に溢れた〝子供の間〞がある。
 「いつかは家を建てるだろうなぁ」と漠然と思い描いていた家づくり。そんなSさんの気持ちを推し進めたのは、軽い気持ちで参加した水戸スタジオの建築家展で、建築家・久保田章敬さんに出会ったからだった。
 「一人だけテンションが違ってましたね(笑)。話をしたら、好きなものへのこだわりが強く感じられて…、それが僕たちの好みととても近かったんです。一つひとつのエピソードに共感できる部分がとても多かった。これまで手掛けた家も、奇をてらったものではなく、普遍的で…とても線がきれいな家だと思いました。僕たちの家づくりのきっかけは、久保田さんといってもいいくらいです」。

「空間すべてが見渡せるから」と平屋建てを希望したS さん。あえて外塀は設けず、オープンに。②

以前から使っていた円形テーブルが置かれることを前提に考えた“食事の間”。テーブルに合わせて弧を描いた壁はオレンジ色に、天井は丸くくり抜いて黄色に。③

空間に合わせた色使いがS邸の特徴。“夫婦の間”はラベンダー色で。④
収納スペースも充分に確保され、すっきりとした空間を実現。⑤
日中は高窓から光が降り注ぐ“ギャラリー”も、夜は照明の灯りがこぼれて幻想的な雰囲気となるそうだ。⑥

「普通の部屋ではつまらない」と久保田さんにリクエストした“子供の間”は、階段やロフトなど子供たちの好奇心を刺激する仕掛けがいっぱい。⑦

自ら振り返って気づいた「僕らが望む本当の暮らし」

その後、ようやく見つけた建築地は田んぼの中の一角。初めてこの土地を見たときは、久保田さんと「この環境だったら、絶対に平屋建てですよね」と、話が盛り上がったそうだ。そして、より具体的に家づくりが始まると、改めて、Sさんは自分自身を振り返る。
 「妻とお互いに譲れる部分、譲れない部分を書き出しました。そこで初めて自分たちが本当にいいと思うもの、望んでいる暮らしが見えてきた。たぶん、この機会がなかったら気づかなかったし、考えもしなかったでしょうね」。
 久保田さんに渡した数ページに及ぶ要望書の中には、ご夫妻の好みや子供のころに過ごした家の様子などが記載されているだけ。家の形を左右するような要望は、写真が趣味のSさんが希望した写真室以外はひとつもなかったそうだ。
 「具体的なことを言わなくても、久保田さんなら僕たちの好きな家、望む家を建ててくれると信じていましたから。不安は全く感じなかったです」。
 久保田さんから「イメージが固定するから」となかなか見せてもらえなかったプランを、ようやく見ることができたとき、Sさんは「唖然とした(笑)」という。
 
「これまで見たことのないプランで、面白いと思いました。それから、改めて、これが自分の家になるんだなと実感がわいてきた」。
 打ち合わせでは久保田さん自ら議事録を作り、Sさんの質問や疑問に丁寧に答えてくれたという。それでも足りないときは、頻繁にメールを送りあい、コミュニケーションを図ったそうだ。
 「小さい子供もいて、それほど打ち合わせに時間が割けないので助かりました。メールの確認が深夜に及ぶこともあったけど、やればやっただけ、自分たちの家が完成へと近づ
くことが実感できたので楽しかったですね」。
 ついに完成した我が家。しかし、引き渡しを明日に控えた前日に、あの東日本大震災が起こる。この地域も震度六と大きく揺れ、家族との連絡もままならない混乱した状況の
中、水戸スタジオの現場担当者は何時間もかけてS邸の確認に来てくれたという。幸いにも安定した構造と丁寧な施工によって損傷することもなく、無事に引っ越しすることがで
きた。今では、周囲に気兼ねすることなく、子供たちはのびのびと過ごしている。Sさんは「子供たちの笑い声はもちろん、蛙や虫の鳴き声、屋根にあたる雨音さえも、この家で
は楽しく感じる」と話すように、この家には周りの自然とともにおおらかな時間が流れているようだ。
(取材/林ちえみ)

奥様が一番こだわった洗面所と浴室の壁のモザイクタイル。わざとムラがでるように貼ってもらった。⑧
バスルームはSさんのお気に入り。トップライトからの光を受けて、壁のモザイクタイルが美しく光り輝く。⑨
寒々しい印象の北側のトイレの壁は、この地域のシンボルである“さくら”をテーマに落ち着いたピンクを塗布。⑩
今はまだ光り輝く外壁の銅板も、年月とともに美しい緑青色へと変化していく。大きな玄関ドアは無垢材でオーダーメードしたもの。⑪
夜は“食事の間”からもれる光で、家全体がまるで行灯のような趣きを見せるS 邸。初夏には、南面に広がるたんぼから蛙のにぎやかな鳴き声が聞こえてくるそうだ。⑫

■後台の家

所在地

茨城県那珂市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供3人

設計

設計 久保田章敬建築研究所
 担当 久保田章敬、十川晶
構造 須賀設計事務所
 担当 須賀勇

施工

ASJ水戸スタジオ[株式会社葵建設工業]
 担当 小森孝洋
設備 株式会社ティーベック 担当 神長昇進
電気 ワカナ有限会社 担当 小松崎久雄
外構・造園 有限会社江橋建装 担当 江橋智一

構造・構法・規模

木造在来工法
地上1階 
軒高 4,250mm 最高の高さ 4,360mm
敷地面積 330.57m2
建築面積  93.78m2(建蔽率28.4% 許容60%)
延床面積  86.88m2(容積率26.3% 許容200%)

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板葺き、銅板葺き
外壁 ラスモルタル下地吹付け、銅板張り
開口部 アルミサッシュ、木製無垢材
外構 枕木、砂利、コンクリート

主な内部仕上げ

廊下
 床 畳敷き
 壁 EP塗装
 天井 木製ルーバー
読書の間
 床 畳敷き
 壁 EP塗装
 天井 EP塗装
リビング・ダイニング・キッチン
 床 パイン材無垢フローリング張り
 壁・天井 EP塗装
主寝室及び子供部屋
 床 パイン材無垢フローリング張り
 壁・天井 EP塗装

工程

設計期間 2009年 9月~2010年9月
工事期間 2010年10月~2011年3月

撮影

石河正武(表紙 ③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩)
中道淳(①②⑪⑫)

断面図
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1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大

久保田章敬

[東京都港区]

1957年京都府生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業/1984年ミラノ工科大学建築学科入学/ 1985年ジャンカルロ・デ・カルロ事務所入所/1987年アントニオ・チッテリオ事務所入所/1989年久保田章敬建築研究所設立
後台の家
 
 「おおらかなところに住みたい」というご家族の強い願いのもと、探し求めて出会った敷地は辺り一面に田園風景が広がる理想の環境でした。そこで、ゆったりと流れる、豊かな「時間」を生み出すことがこの住宅の重要なテーマです。
 全ての居室が南側に面するよう東西方向に長い平屋建てとし、外観はこの風景に溶け込む佇まいをイメージして、伸びやかな庇のある建物としました。外壁の淡い茶色は大地と馴染み、エントランス部分に用いた銅板は経年変化していく中で、この建物に味わいのある「時間」を刻み込んでいくことでしょう。
 アプローチから玄関に入ると南側の田園風景が飛び込んできます。このスペースは、読書とゲストルームの機能を兼ね備えており、畳敷きによって「ギャラリー」と繋がっています。そこは、畳、高窓、ルーバーにより構成されたこの建物の軸となる空間であり、リズムを持った奥行感は豊かな「時間」を生み出す重要な役割を担っています。
 「食事の間」では、既にお持ちの丸テーブルを尊重して中心に据え、円形の空間を設えました。この円の持つ求心力によって、家族が集い語らう貴重な「時間」が生まれることを願っております。
 また「子供の間」は、朝陽で目覚めるようにこの建物の東側に配置しています。1.3mの高さを楽しむ造り付けベッドや風景を切り取る窓は、変化に富んだ視点と広がりを生み出してくれることでしょう。
 人の心を豊かにしてくれるもののひとつに、色彩があります。
 この建物が建つ那珂市のシンボルは、ひまわり、白鳥、そしてさくら。これらに備わった色彩を含め、特徴ある配色をバランス良く施すことで、単色でもまた重なり合っても各スペースに個性豊かな表情を与えてくれます。
 この建物を通して体験される様々な発見は、このご家族ならではの豊かな「時間」を生み出してくれるものと信じております。

ASJ水戸スタジオ

[株式会社葵建設工業]

クライアントパートナー:吉川毅
 S様は、土地、スケジュール等が白紙の状況からのスタートでした。早い段階で、ご夫婦ともに久保田先生と家づくりをご希望と決まっていましたので、土地が決まればスムーズに流れると思っていましたが、引き渡しまで、あっという間に3年の時間が経っていました。
 ご夫婦が希望されていた広々とした場所が見つかり、久保田先生と下調べをすると、敷地を分断するように水路が通っている!? 水路の分筆、開発行為、農地法など諸問題をクリアして購入となりました。プレゼン後は大きな変更もなく、ご夫婦の人柄どおりの、明るく、楽しい家づくりとなりました。
 完成直前に東日本大震災に見舞われましたが、幸いにも大きな問題もなく、無事に引き渡しとなりました。引き渡し後には「建築家のアスリートたち」の取材先に選ばれ、テレビで放送もされました。撮影の際には久保田先生の奥様によるサプライズもあり、今までにない番組ができあがったと思います。
 S様と久保田先生とスタジオとが一緒になってつくり上げた実感が残る3年が過ごせました。これからが、永いお付き合いとなりますのでよろしくお願いします。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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