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ASJ Works Close-up

北の大地に映える赤い窓枠の家

北海道勇払郡厚真町

@ハウス

設計 小川一/小川建築工房
施工 ASJ室蘭・苫小牧スタジオ[東海建設株式会社]

住宅の敷地に面する位置には小高い木々が連なる雑木林地帯。まさに大自然のなかに住宅が佇む情景。

 北海道勇払郡厚真町。大阪出身のM夫妻が、新たな生活の拠点として選んだ街だ。厚真町は北海道と本州やアジア圏を結ぶ「北海道の玄関口」である千歳空港から、車なら約
三〇分弱でアクセスできる。人口は四八七〇人(二〇一〇年三月末日現在)ののどかな田園地帯。とかく今年は観測史上、例に見ない豪雪が報道されがちな北海道の気象状況にあって、厚真町の降雪量は札幌市内の約四分の一程度と、驚くほど雪の少ない地域。年間の平均気温は長野県軽井沢町と非常に近いという。そのような恵まれた自然環境もあっ
て、太平洋に面する厚真町は北海道内では数少ない、サーフィンのメッカとして道民に親しまれている。
 大阪出身のM夫妻が厚真町に移り住んだのは昨年。「以前から北海道の大自然が好きで、夫婦揃って旅行に訪れる機会が多かった」というのが移住の決め手だが、話を聞いてみると、それまでの旅行で訪れていたのは、北見市など山々に囲まれた北海道の中心に位置する地域。「厚真町が位置する太平洋側には殆ど行ったことがなかった」とのこと。本州の方にはイメージが付きにくいかと思われるが、広大な北海道の場合、山脈に囲まれた中央地域と厚真町のような海側の地域では自然そのものが全く異なる。取材時、奥様からこのエピソードをお聞きした際、土壇場の行動力に欠ける筆者は内心思った。「奥さん、随分と思い切りましたね!」。

①② 広がりのある「純白のロケーション」は、北海道民が享受する特権。
③パッシブ設計と雑木林に対するロケーションに配慮したコンセプトスケッチ。
④ウッドデッキを介して外(室外)と内(室内)が一体空間に。
⑤目覚め際に青空を臨むベッドルーム。
⑥日が差し込む方向に開口部を開くパッシブ設計もポイント。
⑦内装には北海道産の木材や建材を積極的に用いた。

当初は、二年後の定年にあわせて北海道への移住を考えていたM夫妻。移住のための土地探しを兼ねて北海道旅行を続けるうち、厚真町を知る。「年間を通じて住まいやすい自然環境に加え、新千歳空港からほど近いだけでなく、高速道路を活用すれば医療設備などが整った札幌市からも一時間を切るアクセス環境も魅力」と判断し、厚真町が分譲する新興の田園住宅地「ルーラルヴィレッジ」を移住先に決め、土地の購入に踏み切った。木々に囲まれた軽井沢の別荘地のような雰囲気を持つ街並みもお気に入りだという。いろいろ考えるにつれ楽しみが増し、計画を前倒しで進めることになったそうだ。
 「四季によって大きく表情を変える北海道での新生活に、全国一律の規格化された大手メーカーの住宅は似合わない」と言う点だけは心に秘めていたご夫妻は、次に、地元大阪のASJ岸和田スタジオが催した「未来をのぞく住宅展」に行き、そこでアカデミー会員に入会。居住地と建設地が離れているため、岸和田スタジオからの相談を受けてASJ本部の小林氏がご夫妻を担当することとなった。

空間設計で重視されたのは「つながり」。各部屋を極力区切らず、空気質的に一体化している。躯体性能が高いため、端境期であれば「薪ストーブのみで十分に暖まる」と奥様。⑧

⑨開口部に沿って庇を配することで夏場に生じる室内のオーバーヒートを防ぐ。
⑩居間に繋がるオープンキッチンはM夫妻のこだわり。

 まずとりかかったのは建築家選び。奥様のリクエストは「(意思の疎通を図りやすいという理由で)地元大阪の建築家であること」と「建築地の地域性を考慮した設計ができること」だった。どの建築家が適任か相当悩んだ末、小林氏は、ひょんなことから北海道に縁のあることがわかった、建築家の小川一氏を紹介する。
 住宅設計については、「例えば『なにげない日常で、満天の星空を夫婦で臨みたい』など、M夫妻が北海道の新生活で夢見る希望を可能な限りシンプルな間取りで実現する」(住宅設計の詳細は図および写真を参照)ことを重視して進められた。
 施工は積雪寒冷地である北海道の家づくりに精通したASJ室蘭・苫小牧スタジオが担当。小川氏は「建設地の勝手を知る地元のスタジオとタッグを組めるのは建築家としても
心強い」と感じている。「@ハウス」では意匠デザインをベースに、開口部(窓部分)や高気密・断熱に係る納まりなど、寒冷地仕様で求められる技術面に対する打ち合わせを綿密に行い、北海道の生活に求められる住宅性能も担保した。
 M夫妻のような本州からの移住者のなかには、北海道の大自然に対する憧れと実際の新生活とで乖離が生じ、「こんなはずではなかった…」と嘆くケースが散見される。M夫妻は「移住には大きな不安も抱いたが、顔が見える地元(大阪)の建築家と、建設地のローカルルールを熟知する地域スタジオのネットワークがあればこそ、一見、大胆に思われる行動に打って出られた」と振り返り、「その行動に間違いはなかった」と笑う。
(取材/萩谷卓彦)

⑪果てなく開けた空のロケーションは、つぶさに変わる太陽の表情を鮮やかに映し出す。

⑫同居するペットと北海道での生活を満喫している。
⑬大阪からの「間違いはなかった」と奥様。
⑭「新しい住まい方」を委ねられる建築家と建築地のローカルルールを熟知している地域スタジオの連携で、「@ハウス」が生み出された。

■@ハウス

所在地

北海道勇払郡厚真町

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦

設計

小川一/小川建築工房

施工

ASJ室蘭・苫小牧スタジオ[東海建設株式会社]

構造・構法・規模

木造2×4工法
地上1階 
軒高 4,240mm 最高の高さ 4,500mm
敷地面積 976.16m2
建築面積 88.36m2(建蔽率9.05% 許容40%)
延床面積 87.95m2(容積率9.01% 許容60%)
1階 87.95m2

主な外部仕上げ

屋根  ガルバリウム鋼板フラットルーフ仕上げ
外壁  構造用合板下地、焼杉板貼
開口部 樹脂製サッシュ
外構  墨入りモルタル刷毛引

主な内部仕上げ

LDK
 床 構造用合板下地、フレンチパイン桐油塗
 壁・天井 クロス貼り
寝室
 床 構造用合板下地、フレンチパイン桐油塗
 壁・天井 クロス貼り
和室
 床 畳
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2009年9月~2010年3月
工事期間 2010年4月~2010年9月

撮影

小川一

断面
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1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大

小川一

[大阪市住吉区]

1961年大阪府生まれ/1985年大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業後、株式会社米田工務店工事部に勤務/1991年株式会社木村工務店設計部入社/2001年有限会社小川建築工房設立

@ハウス
 
必然が偶然を招いた実例 「@ハウス」
 間もなく定年を迎えるM様ご夫婦は、以前から年に1・2回は北海道を旅行されていた。移住を検討し始めてからはほぼ道内全域を回り、移住ならこの厚真町と決め、土地を先行取得し大阪居住地のASJ岸和田スタジオにてアカデミー会員に入会され、建築家選びがスタートした。
「偶然」の出会い・・・
 Mご夫妻におすすめする建築家を選びあぐねていた(後日談)、担当のASJ本部スーパーバイザーである小林さんと他の件で話し中に、私も私用で数度、北海道を訪れた経緯、また近々、計画地近くへ行く予定があることの話から、現地視察となり今回のご縁につながった「偶然」。
 計画地の勇払郡厚真町は苫小牧市の東隣、太平洋に面する農村地帯にあり、道内でも積雪の少ない比較的温和な気候の地域。人口は5千人足らずだが、札幌までは車で1時間以内と、医療・買物の利便性が高く、厚真町役場が町外からの移住者受け入れを積極的に行っていることもあり反響は上々。計画地(約300坪)も厚真町が移住用、別荘用で企画開発した土地で、近所には数年前に東京から移住されたご夫婦が陶芸の釜などを建てられ、趣味を極めた暮らしをしている。
「@ハウス」は「アットマークハウス」と読む
 厚真ハウス→アツマハウス→アッツマーハウス→アットマークハウス→@ハウス(笑)
 @はメールアドレスでおなじみになった記号。日本では「アットマーク」と読むのが一般的だが英語では「at」。「旅行と住むは違うだろうが、良きも悪きも受け入れて」と語る建主様。住み慣れた大阪を出て、この土地に生きることを決意なさったご夫婦が、「ここで!」と、大きな日本地図の一点にピンを刺すような潔さを「@」の一文字に表し、お二人の第二ステージにふさわしいシンプルで明快な住まいが、ここに完成した。

ASJ室蘭・苫小牧スタジオ

[東海建設株式会社]

スタジオマネージャー:中村正弘
 M様とはASJ本部からの「厚真町で住まいを計画している会員様の施工をお願いしたい」との連絡が出会いの始まりでした。
 早速、建設予定地を確認したところ、厚真町が天然の樹木や自然の地形を、ありのままの姿で残した閑静でゆとりのある分譲地(ルーラルビレッジ)でした。
 M様は岸和田市に在住で、将来の居住地を北海道と決められました。道内各地を巡り自然環境のすばらしさと、空港(千歳空港)、医療施設、商業施設等への利便性を考慮し、この地に決定したとお聞きしました。お会いした際、M様はすでに小川一先生と綿密な設計計画を進めておられました。
 小川先生との打ち合わせでは、寒冷地での断熱施工などの技術的な意見交換を十分に行い、設計に反映していただきました。北国に住まわれるM様とは冬の雪かき(除雪)の大変さ、冬道の運転の仕方、和室の裏側が鹿の通り道であることや、四季折々の楽しみ方など、ソフト面の情報交換で有意義なコミュニケーションをとることができ、M様と小川先生がイメージした通り、雪に映え自然に溶け込む住まいをお引き渡しできました。
 このような作品に出会えたことをM様、小川先生にはスタジオスタッフ一同あらためて感謝申し上げます。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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