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ASJ Works Close-up

夢を包む工夫にあふれた高機能二世帯住宅

宮城県亘理郡亘理町

世代をつなぐ家

設計 佐藤忠幸 吉田和人/建築工房DADA
施工 ASJあぶくまスタジオ[株式会社上の組]

午後の光はリビングをやわらかく包む。窓の外に山に沈む夕陽が見える。

南側ファサード。左側が母・娘の住居部分、右側がS さん夫婦の住居部分。①

 雨上がりの静かな午後、車を降りると道の向こうから笑顔で手をふるご主人がいた。くったくのない笑顔は、この住宅が十分に成功していることを物語っていた。その場所は、津波が襲った海岸から四キロ離れた農地の中にある小さな集落にあった。緑の中に凛と起立した漆黒のたたずまいは、震災を乗り越えようとするひとつの強い意志にも見えた。
 S邸は敷地面積約三〇〇平米の二世帯住宅。Sさん夫婦と一人のお子さん、お母さま、Sさんの妹さんが同居する。震災により引越を余儀なくされたSさん夫婦が、津波被害を受けた実家を解体し、おなじ場所に建替えをしたものだ。もとより地域のつながりの強い、生まれ育った場所での新しい生活は、夫婦にとっては何より心強いものだった。
 二〇一〇年の冬にあぶくまスタジオのイベント「未来をのぞく住宅展」の会場にふらりと訪れて、アカデミー会員の申し込みをしたものの、その時は、住宅を具体的に立てる計画はなかった。しかし、震災や出産などで引越を考えたときに、住宅メーカーよりも、自分らしい家」を実現してくれそうなASJを選んだという。
 新築にあたってSさんからのリクエストは、「大きい三角形(!)」だったそうだ。「最初の出会いから『ダダさん(建築工房DADA)』とは相性がよかったんです。技術的なことは全く心配していなかったので、本当に些細な希望ばかり言ってしまいました。唯一、リクエストした強い希望は、同居する妹が言った『屋根が三角形!』でした。笑」。
 はじめにヒアリングをして、基本設計をしてプレゼンする、という通常通りの設計工程だったが、ヒアリングを経た最初のプレゼンですべて望みが叶っていたという。「すごい!
希望を全部取り入れてくれている!」とSさんの家族は皆満足していたという。

吹き抜けのあるリビング。天井からやさしい光がおりてくる。③

雨上がりの風景。南側は見晴らしが良く、遠くの蔵王連峰が見える。②
Sさん夫婦と建築工房DADAの吉田さん。思いの詰まったこの家の話題は尽きない。④
中庭は二世帯の緩やかな仕切りとなっている。⑤
リビングから中庭を望む。⑥

 例えば、奥様の希望は「ハンガー専用のロッカー」。二階に物干のためのバルコニーを設け、その周りを「洗濯」のために徹底的にシステム化した。洗濯物を一時的に「置いておく」場所や「ハンガー」をストックするためだけのロッカーもそのアイデアの一つだ。奥様の生活の中で欠かせない願いが、一つ一つ叶えられる形になった。
 「僕らはお客さんに建築の何かを押し付けることは絶対にないんです。お客さんの要望を聞いて、取り入れて、消化して提案するようにしています」と建築家の吉田和人さん。クライアントのリクエストを受け入れる以上に、心から建主の幸せを願う姿勢に心を打たれた。
 住み始めて半年、Sさんは「全てに満足しています。ASJさんと出会えてよかった。この新しい生活を提供してくれたことに本当に感謝しています」と。
 実は後で分かったことだが、建築家の吉田さんや施工の担当者の吉田さんも、Sさん家族の「友人の友人」。ごく近い間柄だった。この建築のおかげでまた関係が深まったそうだ。建築は人。そのことを改めて思わざるを得ない。
 家族の幸せを「家」で包みつつ、地域という「外」にひらいた建築をつくり上げる設計事務所のポリシーとその高い技術に深い感動を覚えながら、まだ雨の匂いの残る亘理町をあとにしたのだった。
(取材/遠藤和紀)

西側住居部分。使いやすく設計されたキッチンと広い畳スペース。近所の方がよく遊びに来るという。⑦

2 階のインナーテラスは「物干ルーム」。奥様のアイデアが満載だ。⑧
黒の外観も緑の中にあっては主張し過ぎていない。暖かな生活をしっかりと守る色だ。⑱
十分な広さのウォークインクローゼット。⑨
S さんの妹さんの部屋。念願の三角屋根を満喫できる。収納もカスタマイズされている。⑩
シンプルで使いやすい水廻り。⑪
ご主人の書斎兼ワークルーム。⑫
建築時の思い出話に花が咲く、U邸建築“プロジェクトメンバー”。⑪
「世代をつなぐ家」の工事風景。震災時、津波は床上まできたという。被害を受けた実家を解体し、二世帯住宅に建替えた。⑭⑮⑯⑰

■世代をつなぐ家

所在地

宮城県亘理郡亘理町

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供1人 母+妹

設計

設計者 佐藤忠幸 吉田和人/建築工房DADA

施工

ASJあぶくまスタジオ[株式会社上の組]
担当 稲田真吾

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階
軒高 6,890mm 最高の高さ 7,926mm
敷地面積 302.60m2
建築面積 128.44m2(建蔽率42.45% 許容70%)
延床面積 203.71m2(容積率67.73% 許容200%)
 1階 118.83m2
 2階 84.88m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板立ハゼ葺き
外壁 ガルバリウム鋼板
中庭 ジョリパットこて仕上げ
開口部 アルミ樹脂複合サッシュ
外構 コンクリート刷毛引き

主な内部仕上げ

LDK1、主寝室1
 床 無垢フローリング(本桜)
 壁・天井 クロス貼り
LDK2
 床 無垢フローリング(カバ)
 壁・天井 クロス貼り
寝室1、寝室2、主寝室2、洗面脱衣、トイレ
 床 複合フローリング
 壁・天井 クロス貼り
和室
 床 畳敷き
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2011年8月~2012年 3月
工事期間 2012年3月~2012年10月

撮影

遠藤和紀(表紙 ④⑥)
中吉満(①②③⑤⑦⑧⑨⑩⑪⑫⑬⑱)
稲田真吾(⑭⑮⑯⑰)

断面図
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配置図
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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佐藤忠幸

[仙台市青葉区]

1958年宮城県生まれ/1981年工学院大学一部建築学科卒業後、株式会社斉藤邦彦アンド・アソシエイツに勤務/1986年一級建築士事務所建築工房DADA設立/1989年株式会社建築工房DADAとして法人化/2000年東北大学大学院工学研究科都市・建築専攻博士課程修了

吉田和人

1978年福島県生まれ/2001年東北工業大学工学部建築学科卒業/2003年東北工業大学大学院工学研究科修士課程修了後、株式会社建築工房DADAに勤務

世代をつなぐ家
 
 クライアントは東日本大震災により津波で被災したご家族。半壊判定を受けたご実家の建替えを機に親世帯と同居をすることを決め、二世帯住宅としての計画が始まった。
 計画地は田園地帯の中にあるのどかな場所であるが、今回の津波被災の経験から「浸水対策」として既存道路面より約60㎝の土盛りをし、1階床レベルを約1mとしている。
 ヒアリングを経て要望事項を整理する中で子世帯と親世帯とも、今まで確立された生活スタイルがあるものの、世帯間の交流が活発な明るく楽しいご家族であることがわかった。このことから、お互いのスタイルに気を遣わずに生活しながら、家族の気配を感じることができる分離型二世帯住宅のプランを提案しようと考えた。
 従来の二世帯住宅は上下に分けるのが一般的だが、今回の計画では中庭を介して、左右に世帯を分けることにした。玄関、階段、2階のホール、テラスなどを共有スペースとして世帯間をつなぎ、キッチンや浴室など水廻りは全て分離する計画とした。
 両世帯の中心に中庭を設けることは、風や光を取り入れやすくするのはもちろん、お互いの生活音を軽減しつつ、さりげなく見える灯りが家族の気配を感じさせるという3役を果たす。
 親世帯は1階にLDKと水廻り、主寝室、和室を配置し、プライバシー確保のため2階に娘さんの居室を設けた。
 子世帯は1階にLDKと水廻り、タタミコーナーを設け、2階部分は、これから増えるであろう家族に柔軟に対応できるように、共有の収納と広い部屋を設けて自由に間仕切り出来るようにした。
 外観では親世帯からの要望である三角屋根、子世帯の要望である四角いボリュームを採用し、デザイン的にもお互いへの尊重と主張が同居するかたちとなった。子世帯住居である箱型の家屋には震災後、要望が多い太陽光発電パネルが設置されている。
(吉田和人)

ASJあぶくまスタジオ

[株式会社上の組]

スタジオマネージャー:吉田幸三

チーフエンジニア:稲田真吾
 「津波被害からの復興」、「分離型二世帯住宅」という二大テーマが存在し、当初は若干荷の重たさを感じた本物件。ところが実際オーナーのS様にお会いしてプラスに一転します。辛い体験や、今後のり越えるべき問題も数多くありましたが、ご主人を中心に笑いを絶やさず進めることができました。
 町の震災復興施策ということもあり、S様の家づくりは、敷地のかさ上げやそれに伴う土留め、また道路と敷地の境界の復旧から始まりました。地殻変動でGPSデータや公図が役に立たなくなっていることや、着工当初は道路が復旧されておらず重量のある車両を制限した搬入、残存する悪臭など、今までに体験したことの無い障害もありましたが、時間が解決したものも含め、S様・役所・設計・施工チームで協力し、一つ一つ進めました。
 建物が見えてくると、二世帯住宅の課題へと進展します。現場での聞き取り量は2倍です。一度に二つのご家庭と打ち合わせするような感覚さえあります。そして互いのエリアに対して公平さを保つことが要求されます。このあたりが単純にボリュームの大きい住宅を進めることとの違いなのかと思います。統一性を持ちながらも、それぞれのご希望にあわせて多くのパターンが生まれ採用されました。特に各室の家具や戸は細かな部分で個性が出ていると思います。その過程では明るいご主人のリーダーシップにより、互いの世帯の要望や不満を解決し進めていくことができたのだと思います。
 何棟か担当した、建築工房DADAさんの建物。多くの場合は将来への多様性が残されています。家族構成の変化に対応したプランです。S様邸にも間仕切りを変える構想が隠されています。「世代をつなぐ家」という名前を持った本物件。名前の通り、今年誕生したご子息にも愛されることを願ってのことと思います。お引越し後の訪問のとき、彼が二世帯をつなぐ廊下をハイハイして親世帯のほうへ進んでいく姿があり、とても印象的でした。
(稲田真吾)

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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