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ASJ Works Close-up

父に見守られるように建つ倉庫の中のアトリエ

徳島県小松島市

アトリエ「クラノソウボウ」

設計 進藤勝之/Atelier SETTEN (アトリエ セッテン)
施工 ASJ徳島スタジオ[アークホーム/ATインターナショナル株式会社]

道路から見たアトリエのファサード(正面)。採光や通風、内部からの視線の抜けを狙ってバランスよく配された小窓と、杉板でつくられた玄関の風除室の壁が温かな雰囲気をかもし出している。

既存の倉庫に守られるように建つ2つのアトリエ。外壁は質感がわかる程度に白く塗られた杉板の下見貼り。創作のためのテラスは杉板を積んだステップで重厚感を創出。採光のために新たにトップライト(天窓)が設けられた。①

 徳島県東部、海に面した小松島市は港湾都市として栄えてきた。そんな歴史を感じさせる築四十五年の鉄骨造りの倉庫が、母屋と向かい合うように建っている。
 普段は閉じられている重い鉄骨の扉をゴロゴロとスライドさせると、杉板のテラスで結ばれた二つの立方体の建物が、突如現れる。倉庫の大きな天窓から降り注ぐ光に包まれて、白い杉板の外壁が柔らかく輝く。劇場での幕開けのようなその情景に、初めて訪れた誰もが驚き、目を見張る。
 絵手紙教室を主宰するKさんが「父親が遺した倉庫をアトリエに改装したい」と考え始めたのは数年前。それまでは公民館などで教えていたが、そろそろ活動拠点が必要だと思うようになったからだ。とはいえ、漠然と思うだけで何から手をつけたらいいか、わからないままに時間が過ぎていった。
 そんなとき、新聞でASJ徳島スタジオ主催の「未来をのぞく住宅展」の広告を見つけ、出かけてみた。
 「その場で建築家の進藤さんと運命的な出会いをしました。過去の作品も、ご自身の服装もセンスがよかった。話をしていくうちに、この方なら夢を形にしてくれる、と直感して、その日にASJに入会し、翌日には倉庫を見てもらいました。その時点でほかのメーカーを巡るなんてことは考えもしませんでした」。
 Kさんの希望は「倉庫は出来る限り現状のまま」「絵手紙教室の生徒さんや初めて訪れる方が出入りしやすい明るいサロン風に」という二件のみ。ご本人とお母様のヒヤリングから始めた進藤さんは「倉庫は家族の思い出が詰まっている大切な存在。お二人にとってお父さんそのものだ」と感じた。
 できあがってきた図面と模型を初めて見たときの感動を、Kさんは忘れられないという。
 「私のとりとめも無い話をもとに、漠然と思い浮かべていたことが、完璧に反映されて、形になっていました。父親の懐に抱かれた子どものような構造。発想のすばらしさにうなりました」。

テラスでくつろぐKさん母娘。倉庫の壁はギャラリーとしても活用できるという予想外の大きな産物が嬉しかったという。⑤

「ここを拠点に人の縁を結んでいきたい」と、進藤さんに夢を語るKさん。その傍らでお母様が静かにほほ笑む。②
北のアトリエから南のアトリエを望む。「視界が広がって、バツグンの開放感」と生徒さんたちにも好評。③
筆を洗う洗面台やトイレなどはアトリエの奥に。倉庫とアトリエのすきまが機能的なスペースとして活かされている。④

実は、進藤さんのオフィスは大阪市内。しかし、ファックスや電話でのやりとりによって大阪と徳島の間の〝距離〞は全く感じなかったという。また、工事中に何度も大阪から高速バスで通ってくる進藤さんや、手間を惜しまずに丁寧に仕上げるASJ徳島スタジオの仕事ぶりに誠意を感じられたことが、さらなる安心感につながった。
 「むかしから、ここにあったようにリラックスできるんです。懐かしさすら感じる離れがたい空間です」と愛おしそうに話すKさんに進藤さんが提案したこのアトリエの愛称は、「クラノソウボウ」。「作品などをしまっておく蔵(くら)」「創りだす創(そう)と二つでひとつの双(そう)」「小部屋という意味の房(ぼう)」という思いが込められている。
 特にテラスは大きな作品を仕上げるのにうってつけのスペース。「回廊」と呼んでいる建物を囲む路地のような空間も、いろいろな動線とともに開放感を生んでくれ、大勢の生徒さんが集まっても狭さを感じない。
 夕暮れどきには白い外壁が、かすかにピンク色に変わる日がある。アトリエ完成直後は、作品の制作に没頭して母屋に戻って来ないKさんに「いい加減にしたら?」と、声をかけていたお母様も、テラスの椅子に腰掛けてくつろぐ時間が長くなってきた。
 倉庫とアトリエ。新旧の建物が、母娘のこれからの人生を静かに見守り続けてくれることだろう。
(取材/澤 有紗)

南のアトリエからの眺め。ガラス戸など建具が壁面に収まる引き込み式なので、開放感だけでなく、二つのアトリエの一体感を高めている。⑥

玄関を入ってすぐのホール。倉庫とアトリエのすきまの面白さが最も現れた場所。⑦
ハシゴで上った屋上からは創作テラスが見下ろせ、南北のアトリエと倉庫の親子のような関係がよくわかる。⑧
テラスで作品を制作中のKさん。光のシャワーのなかをさわやかな風が吹き抜けてゆく。⑨
ギャラリーの作品で「暮らしに潤いを」と、南のアトリエには小さなショップコーナーも。⑩
2棟のアトリエを包み込んだ、父親のような倉庫。⑪
夕暮れどきの北のアトリエの表情。これもまた雰囲気がよいと、ついつい長居をしてしまう生徒さんも。⑫

プレゼンテーション時に提出されたコンセプト図。

■クラノソウボウ(絵手紙教室 筆まめ工房)

所在地

徳島県小松島市

主要用途

アトリエ

家族構成

夫婦

設計

設計者 進藤勝之/Atelier SETTEN( アトリエ セッテン)

施工

ASJ徳島スタジオ[アークホーム/ATインターナショナル株式会社]

構造・構法・規模

木造在来工法(アトリエ部分)
地上1階

主な外部仕上げ

外壁 杉板下見貼りの上 木材保護塗装
開口部 木製建具

主な内部仕上げ

南のアトリエ
 床 杉板
 壁 プラスターボードの上AEP塗装
 天井 プラスターボードの上AEP塗装 一部構造現し
北のアトリエ
 床 コンクリート金ゴテワックス仕上げ
 壁・天井 プラスターボードの上AEP塗装
トイレ、手洗い
 床 コンクリート金ゴテワックス仕上げ
 壁・天井 プラスターボードの上AEP塗装

工程

設計期間 2011年10月~2012年3月
工事期間 2012年 4月~2012年9月

撮影

水野真澄(②④⑤⑥⑦⑨⑩⑪)
多田ユウコ(表紙 ①③⑧⑫)

屋根伏図2
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屋根伏図
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1階平面 縮尺1/200
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進藤勝之

[大阪市中央区]

1969年広島県生まれ/1993年広島工業大学工学部建築学科卒業後、株式会社アイ・エフ建築設計研究所に勤務/1997年株式会社彦谷建築設計事務所入社/2007年Atelier SETTEN 一級建築士事務所設立/2012年大阪工業技術専門学校非常勤講師

クラノソウボウ(筆まめ工房)
 
 計画地を訪れ、そこにある建築を見た時、きちんと考えて計画されてきたものだと感じました。今は空っぽの大きな倉庫だが、当時はいきいきと商いが営まれ、その役割を終えた後も少しずつ維持管理してきたクライアントの倉庫への愛着をすぐに理解することができました。そんなクライアントの望みは、既存倉庫の姿をできるだけ残し、絵手紙や版画などを創作するためのアトリエとサロン的な教室にリノベーションしたいということ。
 計画するに当たり、既存倉庫の持つ大きなスペースと新しく必要とされるスペースとのギャップ、できるだけ現状を活かすということとコスト配分、そして既存を活かしたうえでいきいきとした場としてどう再生させるかをポイントとして設定しました。
 方法としては既存倉庫およびその周辺を継続して修繕する。隠れていた妻面を新たな建築のファサードとして整える。既存倉庫の外壁を内部にオフセットしたラインを設定し、それを分割することで小部屋と空きを確保するということ。ひとつはオフィス機能と水廻りをもつパーソナルなアトリエ、ひとつはギャラリーと倉庫の要素をもつパブリックなアトリエ、ひとつはそれらをつなぐ用途をもたないトップライト下のテラス。そしてそれらにレベル差をもつ床を設定することでした。新しい建築を既存との関係性の中で計画したのですが、どちらかと言えば、倉庫との間にできた副産物的なスペースを意識しました。
 既存倉庫が内部空間の関係性を変えて、新たな用途としてのアトリエを包みこむ形で存在し、ここで営まれる創作活動とクライアントをそっと見守ってくれる「父なる倉庫」として、クライアントの望む「再生」を実現できたのではないかと思っています。

ASJ徳島スタジオ

[アークホーム/ATインターナショナル株式会社]

スタジオマネージャー:吉田隼人
 K様のご計画は、「第39回未来をのぞく住宅展」にお越しいただき、そこで進藤先生に出会ってスタート致しました。イベントにてお話しされていたこともあり、はじめの面談からかなり話が盛り上がったのが印象的です。今考えると進藤先生の考え方やK様のしたいことなどが本当にぴったりとはまったな! という雰囲気でした。
 進藤先生と進めて行くのもスタジオとしては初めてのことでしたので、このスペースにどんなものが建つのだろうと1stプレゼンテーションの時はわくわくでした。それはK様も同じで、プランが出たとたん目を丸くして涙が出るくらい感動していらっしゃいました。
 そこからは基本プランよりほとんど変わることなく設計図書の完成で設計契約、請負契約と進行していきました。現場に入ってもコミュニケーションを多く取っていただいたことで、進藤先生が意図していることとK様が思っていらっしゃることを現場により反映することができたのではないかと思います。
 後日お伺いした時にも、作業スペースなどは当初話していたような空間がそのまま広がっていて、心地よい空間・心地よい風が抜ける中で作品が出来上がっていっているのだなと言うのが見て取れ、うれしくなりました。
 そんな空間を作れたことがスタジオにとってもうれしく感じ、またK様と進藤先生だからできた建物で、これからもなお一層、K様にとってよりよい空間を現場で作っていけたらと思いました。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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