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ASJ Works Close-up

お互いの存在を感じ合える家族の時間が増える家

長野県松本市

家族の時間が増える家

設計 鈴木恵介・牧野嶋彩子・宇都宮邦子/空間計画提案室
施工 ASJ松本中央スタジオ[松本土建株式会社]

日本アルプスの豊かな自然に抱かれた環境に、白、茶、グレーの3 色のコントラストが美しい平屋が建つ。

建物の南側は田んぼや畑に面しているため開放感は抜群。光を十分に取り込み、景色を堪能できるよう全面に大きく窓を設置。①

 「朝起きて、東の窓のカーテンを開ける瞬間が好きです。美ヶ原の向こうから上る太陽を見て、今日も一日がんばろうって思うんですよ」。
 日本アルプスの豊かな自然に包まれた広々とした敷地に、Fさんご家族の新居が完成して一年。その住み心地を奥様が笑顔で語ってくれた。
 FさんがASJを知るきっかけとなったのは新聞の折り込みチラシ。かねてより「家を建てるなら建築家にお願いしたい」と考えていたFさんは早速、松本中央スタジオが主催する建築家展に参加し、入会に至ったという。その後、夫婦で設計に携わる鈴木恵介さん、牧野嶋彩子さんの両建築家のセミナーに出席し、実際に依頼することとなった。
 「夫婦でプランを考えてくださるのがいいな、と思いました。男性と女性では家に求めるものが違うので、家づくりでは両方の目線があったほうがいいと思って」とFさん。ご夫婦とお嬢さん二人の四人家族のための住まいとして希望したのは〝家族の時間が増える家〞だった。
 「うちは共働きなので、家にいるときはなるべく家族で一緒にいたいと思ったんです。家のどこにいても、お互いの存在が感じられるような」と奥様。その希望が叶うよう、キッチン、ダイニング、リビング、そして子どもたちの図書室であるロフトまでが、ひとつの空間としてつながっている。そのうえ、プランにはいくつかの仕掛けが隠されている。
 そのひとつが視線をつなぐ、というもの。ダイニングに掘りこたつ式を採用、さらにリビングも掘り下げ、低めのソファを使用することで、キッチンでお料理をする奥様がダイニングやリビングでくつろぐ家族と自然に視線がつながり、会話がしやすくなるよう設定されているのだ。

一段下がったリビングには低めのソファを配置。ソファだけでなく、ステップや窓枠など、家族が思い思いの場所に座ってくつろげるようになっている。③

無機質な外観に木製のドアが温かに浮かぶ。②
リビングの脇に備えられた家族共用のデスクは、かなり広々。④
昼寝に最適な和室。リビングとは引き戸で仕切ることも可能。⑤
リビングにいながらロフトで遊んでいる子どもたちと会話ができる。⑥

 無駄のない家事動線を確保し、作業効率を上げ、家族と過ごす時間を増やすのも仕掛けのひとつ。最大の特徴は家族全員の洋服や寝具を一カ所にまとめた、大きなウォークインクローゼットだ。それぞれの洗濯物を各部屋に振り分ける手間を省けるだけでなく、そこからコミュニケーションが生じることも意図されている。ほかにも、浴室横の脱衣スペースでは、服を脱ぐ、洗濯する、干す、アイロンをかける、という一連の作業が一カ所で可能になっている。さらには、勉強机を子ども部屋に置かず、リビングに家族共用の大きなデスクを設けるなど、省スペース化と家族の時間の創出の両方を叶える仕掛けが数多く存在する。
 また、冬の寒さが厳しい地域であるため、窓にはLow-E(ローイー)ガラスを採用し、断熱性能を向上。昨年の冬は、蓄熱暖房器具二台のみで温かく過ごせたとのことだった。南側の田園風景が見渡せるよう、窓をかなり大きくとってあるため、ガラスに断熱性をもたせるのは重要なポイントだといえるだろう。
 「家事がしやすいし、冬も過ごしやすいし、快適です。でも何より嬉しいのは、子どもたちがのびのびと遊びながら成長していること。家も子どもたちの成長とともに汚れたり、傷がついたりしましたが、それも家族の歴史になっていくんだと思うと楽しいですね」と奥様が微笑む。回遊式の平屋は動線の効率化に役立つだけでなく、子どもたちが元気に走り回る遊び場にもなるのだ。家族は家とともに育つ。その家はきっと、家族との思い出に満ちた、かけがえのない場所となるだろう。
(取材/吉田桂)

余裕の広さのロフト。本棚には奥様が集めた絵本がギッシリ。⑦
将来、空間を区切ること を考え、子ども部屋にはドアを2つ設置。⑧
キッチンにいてもリビングにいても、家族が何をしているかをちゃんと把握できる。⑨
F さんが集めたゴルフと野球のサインボール。⑩
食器や調理家電はすべて大容量の収納へ。⑪
家族の洋服や寝具が集結するクローゼット。⑫
玄関を開け放てば、南から北へ風が通る。⑬
薄暮の頃、大きな窓から明かりが溢れる様子も美しい。⑭

■家族の時間が増えるいえ

所在地

長野県松本市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供2人

設計

設計者 鈴木恵介・牧野嶋彩子・宇都宮邦子/空間計画提案室
構造 羽田野裕二/羽田野構造設計室

施工

ASJ松本中央スタジオ[松本土建株式会社]

構造・構法・規模

木造軸組工法
地上1階 
軒高 5.077mm 最高の高さ 5.200mm
敷地面積 346.47m2
建築面積 180.16m2(建蔽率51.99% 許容 60%)
延床面積 167.27m2(容積率48.27% 許容 100%)
 1階  128.56m2 駐車スペース 38.71m2
 ロフト階 26.08m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板立てハゼ葺き/折板葺き
外壁 ( 黒色部分)窯業系サイディングボード縦貼り
( 木貼部分)杉板縦貼り+キシラデコール2回塗装
( 白色部分)ジョリパット吹付け+ラスモルタル下地
開口部 サーモス(LIXIL)
外構 (ポーチ)モルタル金ゴテ仕上げ
   (駐車スペース舗装)砂利敷(デッキ)レッドシダー
            +キシラデコール2回塗装

主な内部仕上げ

玄関
 床 モルタル金ゴテ仕上げ
 壁・天井 珪藻土塗り
ホール・LDK
 床 クリ無垢フローリングt15+自然塗料塗装
 壁・天井 珪藻土塗り
パントリークローク・集合WIC・洗濯脱衣室・トイレ2
 床 CFシート貼り
 壁・天井 クロス貼り
主寝室・子供室
 床 クリ無垢フローリングt15+自然塗料塗装
 壁・天井 クロス貼り
ロフト
 床 オーク集成材フローリング
 壁 クロス貼り
 天井 珪藻土塗り
和室
 床 縁無畳敷き
 壁・天井 珪藻土塗り
洗面室・トイレ1
 床 磁器質タイル
 壁・天井 クロス貼り 

工程

設計期間 2011年 5月~2011年10月
工事期間 2011年10月~2012年 5月

撮影

土居麻紀子(表紙 ①③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫⑬)
鳥村鋼一(②⑭)

Y方向断面図
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X方向断面図
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ロフト
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1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大

鈴木恵介

[千葉県]

1973 年埼玉県生まれ/ 1996 年沖縄県立芸術大学美術工芸学部デザイン
工芸学科卒業/ 1998 年中央工学校建築学科卒業後、株式会社アーツ&ク
ラフツ建築研究所に勤務/ 2003 年有限会社佐々木善樹建築研究室入社/
2003 年空間計画提案室 共同設立

牧野嶋彩子

1972 年千葉県生まれ/ 1995 年日本大学生産工学部建築工学科卒業後、株
式会社アーツ&クラフツ建築研究所に勤務/ 2003 年空間計画提案室  
共同設立

宇都宮邦子

1978 年神奈川県生まれ/ 2001 年桜美林大学経営政策学部卒業/ 2003 年
スペースデザインカレッジ卒業 / 2004 年株式会社コア建築設計工房入社
/ 2007 年株式会社空間計画提案室入社
築計画工房設立

家族の時間が増えるいえ
 
 「常に家族の気配を感じることのできる家」が欲しいというクライアントからの要望に対して我々が用意したのは「家族の時間が増える」という仕掛け。
 具体的方法論は家事の手間や時間を圧縮し、その分親子や夫婦など家族で過ごす時間を増やすという極めて単純な手法である。しかしながらただ単に家事動線を一カ所にまとめましたという安直な解ではなく、その仕掛けそのものが常に合理的機能性と精神的快適性の両面を担っているという所が非常に重要である。
 例えば、全てのスペースに2 つ以上の出入り口を設け、常に通り抜けが可能になることで回遊という合理性と、走り回るという遊び(快適性)の要素を両立させたり、集合WIC という形式を取ることで洗濯物を各部屋に収納する手間を省きながらも同時に親子間や姉妹間での洋服選びという行為が立派な家族の時間になる、といった具合に。かくして生み出された家族の時間は、アルプスの雄大な自然風景を取り込んだファミリースペースで各々の場所をみつけて共有される。
 コミュニケーションとは、話し合うことだけではなく共有することができる「時間」や「場所」があることが第一歩なのではないかと考えている。建築におけるハード的な仕掛けはそれ自体が目的なのではなく、住まい手の心に精神的充足感を与えて初めて命が宿る。子供たちが成長し、いつの日か両親との思い出を振り返る際に、気がつけばいつも家族が一緒にいたなと感じてくれたらそれは一番の宝物になるに違いない…。

ASJ 松本中央スタジオ

[松本土建株式会社]

スタジオマネージャー:宮澤昌弘
 松本市郊外の田畑の入り混じった住宅地にF様のお宅は完成しました。お引き渡しの時期が、ちょうど初夏の爽やかな季節でした。南にある、田植えの終わった田に建物の美しいシルエットが映えていたのが、とても印象に残っています。
 2009 年の当スタジオ2 回目の建築家展でご入会いただき、翌2010 年の暮れに鈴木・牧野嶋両先生にプランニングコースの業務依頼をいただきました。きっかけは、少し前にご参加いただいた、両先生のアカデミーセミナーでした。その後の実施設計期間は、ご主人様のお仕事の都合などもあり、少し長めの期間が必要となりましたが、その分納得のいく家づくりができたのではないかと思っております。
 ゆったりとした敷地に、平屋のプラン。掘り下げたリビングとダイニングはキッチンに立つ奥様と目線が同じ高さに。家族みんなが使える大容量のウォークインクローゼットに、南向きの明るい洗面所。随所に鈴木・牧野嶋両先生の「夫婦」としてのアイディアが取り込まれた、本当に素敵な空間に仕上がっていると思います。個人的には、様々な角度から検証されたであろう、「生活導線」に非常に感服しました。そしてなにより両先生の建築家としての感性と、F様の家族としての思い。その二つが見事に結実した結果が、「家族の時間が増えるいえ」なのだと思っております。
 F様には感謝申し上げるとともに、家族の時間が増え、さらにはその時間がゆっくりと流れていくようにお祈りいたします。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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