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ASJ Works Close-up

浦賀湾を望む立地を生かした船がモチーフのカフェ&ギャラリー

神奈川県横須賀市

「時舟(ときふね)」

設計 巽順/ベルセン建築計画
施工 ASJ湘南スタジオ[日本住研株式会社]

浦賀海道の対岸(西浦賀側)から「時舟」を眺める。特徴的な三角形の屋根は、ヨットの帆をモチーフにデザインされたものだ。①

打ち放し風の外壁と1 階部分に使用したイペ材が、絶妙な調和を見せるエクステリア。②

丸型の舷窓から海を眺めると、まるで船の中にいるかのような錯覚を覚える。③
歴史情緒あふれる浦賀湾の風景に、「時舟」が違和感なく溶け込んでいる。④

 目の前に浦賀湾が大きく開け、三百年近い歴史を持つ渡し船「浦賀の渡し」が、さざ波の立つ海上をゆったりと往来する。そんな立地条件を最大限に生かして建てられたのが、打ち放し風の外観が青空に映えるカフェ&ギャラリー「時ときふね舟」だ。
 「リタイア後に夫婦でお店を開くことを夢見て、海に面したこの土地を購入しました。小型船舶を五艇も乗り継ぐほど海が好きだったので、海を望む土地にふさわしい建物にしたいというのが希望でした」。
 そう語るSさんは、自らのこだわりを理解し、形にしてくれる建築家との出会いを求めて、一年半前にASJ湘南スタジオ主催の建築家展に参加。それが、建築家・巽さんとの出会いとなった。「年齢が近かったこともあって、話しやすく、何でも相談できる安心感がありました。この人ならきっと自分のこだわりを実現してくれる、と確信しました」と、巽さんに全幅の信頼を寄せたSさん。そこから、巽さんとの二人三脚で、夢を実現するための建築計画が大きく舵を切ることとなった。
 「歴史ある浦賀湾を望む立地を生かしたい」というこだわりを実現するため、巽さんとSさんの間では数十回にも及ぶ綿密な打ち合わせが繰り返され、海を望むロケーションにふさわしい設計が徐々に具体化されていった。「ある程度プランが固まった時点で、巽さんから建物の模型をいただきました。それを見て、巽さんに設計をお願いしてよかったと心から思いました。今でもその建築模型は、私の宝物です」。

1 階のギャラリーでは、時期によってさまざまな展覧会が開催されている。内壁には、「展示の際の釘抜き跡を簡単に補修できるように」と、ドンクロスを使用。⑤

展示物が見やすいように、ギャラリーは八角形でデザインされている。⑥
トップライトから差し込む柔らかな光が、穏やかに流れる時間を作り出す。⑦

海をこよなく愛するSさんと、海に面した土地。そこから導き出されたのは、「海へバウ(船首)を向けたヨットのような空間」だった。一階をギャラリー、二階をカフェとした建物は、正方形を基調としたデザインで構成されている。一階部分は、壁面を掘り込んでデッキ材で仕上げ、打ち放し風の外壁にアクセントを加えつつ、自然な形で一階ギャラリーへのアプローチを作り出した。
 ギャラリーの内壁には、展示の際の釘抜き跡を専用ペイントで簡単に修復できるように、ドンクロスを使用。海側には景色を生かすための窓が設けられており、「ギャラリーから窓を眺めると、まるで額縁の中の絵画を見ているようだ」と、作家さんからの評判も上々だ。
 建物のハイライトとなるのは、浦賀湾に向かって大きく解放された二階のデッキテラス。その対角となるカフェの奥には、マストをイメージした円柱が高さのある天井を支え、トップライトから注ぎ込む一条の光が、洋上を走るヨットのような開放感を生み出している。海側から見える三角形の屋根は、セール(ヨットの帆)がモチーフだ。
 壁に埋め込んだ丸型の舷窓や、デッキテラスをバウ(船首)に見立てた左右の航海灯、室内照明として利用した船舶用作業灯など、建物の要所にはSさんが長年かけて集めた船舶パーツのコレクションが、違和感なく取り入れられている。遊び心に満ちたこうしたギミックも、海と船をキーワードにしたこの建物を構成する、重要な要素のひとつだ。
 「いらしてくれたお客様が、素晴らしいねと仰ってくれるその一言に、この建物のすべてが集約されていると思います。浦賀湾を望む特等席で、訪れたお客様に浦賀の自然とその魅力を感じていただける。そんな場になることができれば、これに勝る喜びはありません」。
 浦賀湾を望むデッキテラスの椅子に腰かけ、そう語ってくれたSさん。長年の夢を叶えたその笑顔は、これ以上ないほどに満ち足りていた。
(取材/岩田一成)

浦賀湾に大きく突き出すようにデザインされた2 階のデッキテラスは、バウ(船首)をイメージしたもの。海を眺めながらゆったりとした時間を過ごせる特等席だ。⑧

どこか懐かしさを感じるカフェの店内。内壁はラーチ合板、フロアは無垢のデッキ材で仕上げられる。⑨
カフェの奥にある円柱はマストのイメージ。⑩
海が見えるデッキはS さんのお気に入り。⑪
船のような雰囲気を演出する丸型の舷窓。⑫
2 階デッキの左右には航海灯を装備する。⑬
レトロな船舶用作業灯を室内照明に流用。⑭
スケルトン階段で開放感あふれる空間に。⑮

■浦賀のカフェ 時舟

所在地

神奈川県横須賀市東浦賀2丁目4-21

主要用途

飲食店、ギャラリー

設計

設計者 巽順/ベルセン建築計画 担当 利光哲郎
構造 有限会社宇興建築設計事務所 担当 阿部興一

施工

ASJ湘南スタジオ[日本住研株式会社]

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階
軒高 8,529m 最高の高さ 8,964m
敷地面積 149.44m2
建築面積  71.97m2(建蔽率48.16% 許容 60%)
延床面積 111.42m2(容積率74.56% 許容200%)
 1階 56.98m2
 2階 54.44m2

主な外部仕上げ

屋根:ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き
外壁:繊維混入フライアッシュセメント板 クリア塗装
一部、無垢デッキ材(セランカンバツ)張り
ウッドデッキ床:無垢デッキ材(セランカンバツ)張り
開口部 アルミサッシュ
外構 土間コンクリート 金ゴテ仕上げ

主な内部仕上げ

1階エントランスホール
床 コンクリート金ゴテ押えの上、防塵塗装
壁 構造用合板 EP拭取り
天井 PBの上、EP
1階ギャラリー
 床 コンクリート金ゴテ押えの上、防塵塗装
 壁 ペンキ下地クロスの上、EP
天井 クロス貼り
2階客席
 床 無垢デッキ材(セランカンバツ)張り
 壁 構造用合板 EP拭取り、一部、本実杉板張り
 天井 PBの上、EP塗装
2階厨房
 床 CFシート張り
 壁 耐水PBの上、AEP
 天井 ケイカル板の上、AEP

工程

設計期間 2011年4月~2012年 4月
工事期間 2012年4月~2012年10月

撮影

石河正武(表紙 ⑤⑧⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮)
齋部功(①②③④⑥⑦)

店舗情報

時舟(ときふね)
神奈川県横須賀市東浦賀2丁目4-21 東岸渡船場隣
tel 046-876-8101
定休日 カフェ 火曜日 第1・第3水曜日
    ギャラリー 火曜日

断面図A
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断面図B
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大

巽順

[東京都品川区]

1957 年兵庫県生まれ/ 1980 年早稲田大学理工学部建築学科卒業/ 1983 年早稲田大学理工学部大学院修士課程修了後、レーモンド設計事務所に勤務/ 1990 年株式会社ベルセン建築計画設立

浦賀のカフェ 時舟(ときふね)
 
クライアントとの出会い
 2011 年4 月 クライアントのS 氏との出会いがありました。まさしく、あの、3.11 の直後のことです。S 氏は、この地でご自分の終の棲家とレストランを計画しておられましたが、海に隣接した敷地に住宅を建てることをあの津波より躊躇され、計画を見直しされたいというところから、このプロジェクトがはじまりました。
 
環境からのイメージ
 三浦半島の東部に位置する浦賀港は、海より1.5km 切れ込んだ湾となっており、東西両岸をいききする渡船「浦賀の渡し」は300 年近い歴史があります。敷地はこの東渡船場に隣接した海辺に立地しています。ペリーが率いる黒船が来航したこの地は、歴史とふれあう散策ルートとして親しまれ、造船所のドッグなどとりこんだ水際沿いのプロムナードとしての整備なども計画されています。S 氏が、海をこよなく愛してきたこと、またこのロケーションの鮮烈な印象から、海に開かれた船のような空間をつくろう! との夢から設計がスタートしました。
 
かたち
 建物の平面は8.4 mの正方形。1 階はこのマッシブな固まりから掘り込んだ外部空間をつくり、エントランスホールのアプローチとしました。45 度にカットされた三角形の2 階のデッキテラスは、大きく海に向かって開放され、浦賀港を一望できるロケーション。まるで、船に乗っているような感覚。対極の角はマストによって持ち上げられた形となり、マストの向こうからは、天空からの一条の光がレストラン空間に注がれます。キッチンと階段・トイレは、両極の小さな箱の中に納まり、大屋根の下に入れ子構造になっています。海から見ると、持ち上げられた正方形の1/2 の三角形の屋根がヨットの帆のように光っています。
 
素材とそのもののもつ生命力:物質
 外壁は、打ち放しのイメージの潮風にも強いセメント系素地ボード張り。1 階の掘り込まれたピロティ外壁にはデッキ材を使い、木の温かみを演出しました。1 階床はコンクリート打ち放し、ギャラリー内壁は展示のための釘抜き跡も修復できるクロスに白ペンキ。2 階デッキテラス、レストラン床はイペのデッキ材。内部壁は、構造用ラーチ合板と、すべてこの海辺にふさわしい素地のものを使いました。
 
時間と空間_プランニングのプロセス
 S 氏との話し合いのなかから、プロジェクトの骨子が徐々にかたまっていき、最終的に1 階にギャラリー、2 階にカフェをつくることとなりました。S 氏は長年船にのっておられ、ご自宅に打ち合わせに行くと、船舶用の窓、ランタン、霧笛など、船に関するたくさんのグッズが集まっていました。これらの魅力的な歴史を建物に埋め込んでいく作業は、とても楽しい時間でした。いままでのお仕事をリタイアされてから、レストランを始めたいというS 氏ご夫妻の長年の夢を実現するために進んでいくプロセスを共有できた幸せに、また、施工にあたって尽力いただいた湘南スタジオ様に、感謝しています。

ASJ 湘南スタジオ

[日本住研株式会社]

クライアントパートナー:中西信洋
 S 様は2 年前の住宅展に奥様とご来場くださり、巽先生の作品、家づくりの考え方に共感されご入会いただきました。敷地はヨットハーバーに隣接する海辺のロケーションでギャラリーとレストランを計画され、地域のランドマークになるような建物を望んでいらっしゃいました。
 プラニングコースをスタートしファーストプレゼンでプランの方向性が決まり、幾度かの提案を行い、S 様の建物に対する思い入れに巽先生がプランで応え、形となりプランニングコースが終了しました。東日本大震災後ではありましたが、S 様の前向きな気持ちが打ち合わせで感じられ、S 様、建築家、スタジオの3 者が一つの目標に向けて進めたと思います。
 また設計契約後に巽先生の用意されたシャンパンでS 様の家づくりの実現に向けて乾杯したことが印象に残っております。その後、約2 か月の実施設計中もS 様と細部の打ち合わせを重ね、建物請負契約と進み、着工へ至りました。
 着工後は現場で材料の選定、各部の色の確認等、施工の過程でS 様に参加いただき、約7 ヵ月を経て完成。デッキから海を一望する風景と、開放的な室内空間が、居ることの心地良さを実感できる建物となりました。
 現在では地域の人々、観光で訪れた人々の憩えるレストランとして、また社会的にも意義のあるギャラリーとして地域紙に掲載されています。
 S 様の家づくりに巽先生と共に参加でき、施工に携われたことに、担当者として喜びを感じております。
 今後も建築家との家づくりのすばらしさを地域の皆様に知っていただくために、スタジオとして活動を続けて参ります。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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