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ASJ Works Close-up

海を越えて築いた理想の城

岡山県倉敷市

天城の家

設計 天久和則/テンキュウカズノリ設計室
施工 ASJ岡山中央スタジオ[株式会社イチエ建匠]

中庭に面するオープンなリビング。長い庇が強い日射しや雨の吹き付けを遮る。「窓の掃除がラクです」と奥様。

部屋をコの字に配置して中庭を設け、外からの視線を巧みに遮っている。①

 天の城と書いて「あまき」。そんなロマンチックな地名が残る一帯は、鎌倉時代には城が築かれ、江戸時代は岡山藩の陣屋が置かれた歴史深い地域。そして近年はベッドタウンとして、ビジネスマン達の城が並んでいる。その一画に土地を得たTさんは、当時、海の向こう、徳島県に住んでおられた。
 「いわゆる転勤族で、ほぼ三年ごとに社宅を転々としていました。子ども達が成長するに従って、転校が可哀想になり、妻の実家に近いこの場所に家を建てることに決めたのです」。 土地の購入後、Tさん夫妻はまず大手ハウスメーカーに相談。現住所と新築予定地が離れていることから、ネットワークの広さを重視したのだった。ところが。
 「地域連携がとれたメーカーはなかなか見つかりませんでした」。
 奥様が当時を振り返って話される。結局、モデルルームを数ヵ所回ったところで、家づくりは暗礁に乗り上げてしまった。 徳島県のASJのイベントに参加されたのはそのころで、Tさんの要望を聞いたASJのスタッフは、岡山県に拠点を置く建築家の天久氏と、ASJ岡山中央スタジオを紹介させていただいている。
 「天久さんは、言葉数が少ないものの提案が的確で、また、岡山中央スタジオは、丁寧な仕事ぶりが過去の作品に現れていて、お願いすることにしました」。
 そう語るTさんが、設計に際して出された要望は、陽あたりと風通しのよい家。そして、社宅団地で快適と感じたワンフロアー、つまり平屋建ての構造だった。ところが、天久氏は敷地を有効に利用するため、平屋ではなく子ども部屋を二階に設けることを提案。
 「子どもの自立心を育てるうえでも二階建てに変更してよかったです」と、Tさんは満足そうに話される。 ところで、瀬戸大橋が架かるとはいえ、海をはさんでの家づくりに不安はなかったのだろうか?
 「ありました、ありました!(笑) 当時、社宅の友人達も家を新築中で、進行状況は定期的に確認したほうがいいとアドバイスをもらっていました。でも、海を渡ることができるのは月に一度ほど。ところが、岡山中央スタジオの住田さんが、頻繁に画像をメールで送ってくださり、安心できました。おかげで『知らないあいだの変更』は一つもありませんでした(笑)」。
 そんな奥様の言葉からは、家づくりには、社宅での情報や体験が随所に活かされていることがわかる。例えば、玄関に設けた収納スペースは、以前便利だった収納庫を再現したもの。また、広めの洗面台を採用したのは、周りに水しぶきが飛ばないようにと考えたからである。

「リビングのソファは天久さんの意見を聞いてから決めます」とTさん。②
子ども達は格子戸を開けて「ただいま」。そんな一瞬にも心が安らぐと奥様。③

キッチンの天井を低く抑えたことでリビングがより広く感じられる。④

 なにより、中庭に面したリビングは、周囲の目をはばかることなく、くつろぎの時間を提供してくれる。横になれば天空の城のように、青空が広がっている。夜は夜で、天久氏提案のイカ釣り用の照明が、夜空に瞬く星のように、静かな安らぎを与えてくれる。
 「通勤距離が長く、帰宅が遅い私にとって、この家で家族とともに過ごす時間が、なによりのリフレッシュになっています。妻もこの家を建てる前に比べると、やさしくなりましたしね(笑)」。
 天を仰ぐ城は、いかなるときもTさん一家を守り、明日への活力を与え続けるに違いない。
(取材/香川泰子)

夜はイカ釣り漁用の照明が幻想的な雰囲気を演出。⑤
道路側の建物は寝室に。ほどよいスペースが快眠を運んで来てくれる。⑥
カウンターキッチンではなくテーブルを独立させて広く使うのが奥様の希望。⑦
独立した和室はTさんの希望。来客用になったりお昼寝場所になったり。⑧
玄関に設けられた収納スペースには自転車なども入れられる。⑨
奥様の提案が活かされた洗面所。横長の洗面台は二人で使えるほどの長さ。⑩
落ち着いた色の外壁にハツユキカズラが映える。こうした景色もT さんのお気に入り。⑪
窓枠のタテの位置を左上の壁の位置に合わせるなど、天久氏の空間の見せ方を、岡山中央スタジオは正確に実現。⑫
道路側の建物の向こうには表紙の写真のような安らぎの空間が広がっている。⑬

■天城の家

所在地

岡山県倉敷市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供2人

設計

設計者 天久和則/テンキュウカズノリ設計室

施工

ASJ岡山中央スタジオ[株式会社イチエ建匠]

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階 
軒高 6,730mm 最高の高さ 6,830mm
敷地面積 201.50m2
建築面積 104.97m2(建蔽率 52% 許容 60%)
延床面積 116.48m2(容積率57.8% 許容200%)
 1階 88.61m2
 2階 27.87m2

主な外部仕上げ

屋根:カラーガルバリウム鋼板 t=0.4 横葺き
外壁:ラスモルタル下地 弾性リシン吹付け
開口部:アルミサッシュ、一部木製建具
外構:コンクリート木コテ押え、モミジ、アイビー

主な内部仕上げ

リビング
 床 アッシュフローリング
 壁・天井 クロス貼り
ダイニングキッチン
 床 アッシュフローリング
 壁・天井 クロス貼り
和室
 床 縁なし畳敷き
 壁 クロス貼り
 天井 シナ合板
寝室
 床 複合フローリング
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2011年10月~2012年6月
工事期間 2012年10月~2013年4月

撮影

水野真澄(表紙 ①②③⑦⑨⑩⑪)
野村和慎(④⑤⑥⑧⑫⑬)

断面図A-A
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断面図B-B
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断面図C-C
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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天久和則

[岡山市北区]

1970 年広島県生まれ/ 1993 年福山大学工学部建築学科卒業/
1995 年株式会社佐藤建築事務所入所/ 2000 年株式会社建築倶
楽部入所/ 2003 年テンキュウカズノリ設計室設立

天城の家
 
 かつては武家屋敷・町人町をもつ陣屋町として発展した倉敷市藤戸町は、今でも古い商家の建物が残り往時の面影を色濃く残しているが、その歴史的な町並みとは対照的に、計画地は田を埋め立てた新興住宅地の一角にある。新たなまちがつくられていくこの場所で計画するにあたっては、周囲に対する圧迫感を軽減すると共に潤いを与えることを心掛けた。
 建物の配置は単純である。Tさんの要望であったプライバシーの確保として、プライベートな庭がある中庭型のプランとした。当初は平屋を希望していたが、敷地の大きさや要望の内容からだと平屋にするのは難しいため、子供室のみを2 階に、主要となるLDK と主寝室等を1階に配した。リビングとダイニングキッチン、そして寝室は、コの字型の真ん中にあるプライベートな中庭を介し、緩やかな空間の連続性を生み、お互いの気配がなんとなく感じられるようになっている。
 2 階建て部分の大きな屋根は平屋の屋根に連続していき、連続する切妻の屋根は道路に近づくにつれ低く抑えられ、圧迫感を与えないようにした。道路と建物の間の緩衝スペースには植栽を植え、街並みだけでなく行き交う人々にも潤いを与えることができることを願う。

ASJ 岡山中央スタジオ

[株式会社イチエ建匠]

スタジオマネージャー:住田栄一
 T様は徳島のイベントでアカデミーにご入会いただき、建築地が岡山と言うことで、当スタジオが担当することになりました。
 お住まいが徳島のため現場の進行具合もわかりづらい中、不安なこともあったと思いますが、無事に完成することができました。
 現場を進めて行くうちにT様のこだわりの部分も分かり、他とは違う建物を求められていると感じました。図面どおりに進めて行く中、私もT様も天久先生の空間の見せ方などは、「すごい」と、一緒に感動したことを思い出します。
 この「天城の家」をよい建物にと、一期一会の精神でT様、天久先生、協力業者がひとつになり完成できたと思います。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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