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ASJ Works Close-up

神々しい光が遊ぶ白亜の住まい

和歌山県新宮市

碇を下ろしたフロートハウス

設計 山口是彦/スタジオクランツォ一級建築士事務所
施工 ASJ紀伊・田辺スタジオ[株式会社リビング建築工房]

廊下の正面、リビングの窓の向こうには世界遺産の神倉山が鎮座している。

遮るもののない西側に向けてリビングの窓を配置。突き出した2 階部分は大海原を進む船首のよう。①

 アリの行列のように、大勢の人が列をつくり、参拝したという熊野三山。その三山の一つ、熊
くまのはやたまたいしゃ野速玉大社の門前町として古くから栄えてきたのが、新宮市である。
 そんな神々しい町の一画に、黒と白を基調にしたスタイリッシュなM氏邸はある。
 「家を建てるなら、設計は建築家の方に依頼したい、外壁は黒色を選びたいと思い続けてきました」。
 そう語るMさんは新宮市の出身。学生時代を関東で過ごし、卒業後は祖父の代から続くお店を継ぐためにUターン。現在は、関東から迎えた奥様と共に、ご両親を助けながらお店をもり立てている。
 親孝行なMさん夫妻が、「そろそろ自分達の夢の実現を」と考えはじめたのは三〇歳を過ぎたころ。ASJ紀伊・田辺スタジオが開く住宅展を知ったのも、そのころだった。
 「建築家の方と出会う機会は滅多にないからと、クルマを二時間ほど走らせ、紀伊半島を東から西へと横断しました」。
 Mさんとともに夢を追う奥様が、当時を振り返ってくださった。その日は会場を一周するだけだったが、二度目の参加で見たのが、建築家、山口是彦氏が手がけた住宅の竣工写真だった。
 「一目で『これだ!』と思いました。そこで、僕は山口さんに設計を依頼したいと思ったのですが、妻はかなり消極的でした」。
 「そのとき見た施工事例がどれもとても立派で、豪華だったんです。費用を考えると、私達の予算では『絶対に無理!』と思いました」。
 そこで「ダメでもともと」と、紀伊・田辺スタジオ(株式会社リビング建築工房)の社長、中岡学氏に交渉を委ねることにした。中岡氏は「建築家と共に家を建てたい」というMさんのひたむきな思いを知るだけに、「なんとか力になりたい」と奮闘。その結果、山口氏からはOKの返事が戻ってきた。
 その後、山口氏は新宮の町を訪ね、現地調査だけでなく、周辺も散策。そして、Mさん達の話をじっくりと聞いている。その際に、Mさんが要望として伝えたのは、黒を基調にしてほしいこと、ホームシアターが楽しめる部屋がほしいという二点くらい。そのほかは、熊野速玉大社の祭礼「お燈祭」で、Mさんが松明を手に神かみくらやま倉山を駆け降りることなど、雑談を交わしただけだという。 それだけに、設計図や模型を見たときは、「すべてが衝撃的でした」と、Mさん夫妻は興奮気味に話す。

二方に設けられた窓からは神倉山のほか天然記念物の浮島の森など周囲の景色が大パノラマで眺められる。②

玄関のドアを開けるとガラス越しに樹木が出迎えてくれる。その開放的な景色は奥様のお気に入り。③
家具は「部屋の景色に合うものを」と建築家の山口氏に選んでもらった。④

 「二階をリビングにといった提案や、夜はその二階をライトで照らすといったアイデアは、僕達の想像をはるかに超えていました。そして、実際に住んでみると、山口さんが、西側だけが遮るもののないこと、共働きの僕達の生活リズム、そして、神倉山への畏敬の念までを理解し、設計してくださったことが、よくわかるのです」。
 Mさんの話を聞いて、奥様も「そうそう」と…。
 「一階の寝室で目を覚まし、身支度を調え、朝陽がキラキラと散乱する階段を上がると、神倉山の姿が目に飛び込んできます。その瞬間が夫も私も大好きで、『今日も頑張ろう!』って気持ちになるんですよ」。
 一方、日が暮れると、外壁がライトアップされ、山口氏が「碇いかりを下ろしたフロートハウス」と名付けたように、白い二階部分だけが暗闇に浮かび上がる。その独特の浮遊感が一日の疲れを忘れさせてもくれる。
 ところで、費用面での問題はなかったのだろうか? 
 「M様ご夫妻は三〇歳代と若く、将来のことを考えると、やはり予算には限りがあります。そこで、山口氏と当社を含めて三者が、それぞれ知恵を出し合い、努力しました。そうした過程もあり、竣工の日を迎えたときは感無量でしたね」。
 紀伊・田辺スタジオの担当者、十河唯さんによると、M氏邸は、リビングなどの二階部分に費用をかけ、その代わり、寝室や外構はコストを抑えたという。
 白亜の部屋が夕陽に染まるころ、M氏邸をあとにしたスタッフ達は、山口氏をまねて、新宮の町を散策することにした。
 そこで、思いがけず出会ったのが、大正時代に建てられたという洋館「西村家住宅」である。東京で「文化学院」という自由教育の学校を設立した西村伊作が、郷土に建てた自邸で、暖炉を囲むように談話スペースがあったり、現在のリビング・ダイニングの原型とされる構造になっていたりと、伊作の先駆者的な気質が随所に見て取れる。
 また、洋館にかかる絵画や写真は、かつての新宮の繁栄をよく伝えていて、なかでも熊野川に浮かぶ何十艘もの川船や大型船は、Mさんのフロートハウスの勇姿と重なる。
 Mさん達が、ご両親とともに営む精肉店は、地元特産の熊野牛を自ら育てていることで知られ、訪ねたときも、県内外からのファンでにぎわっていた。その繁盛ぶりを見ていると、あの神々しい光が遊ぶ、進取の気概に満ちた住まいは、やはり新宮の町の、新たな川船ではないかと、そんな思いを強くしたのだった。(取材/香川泰子)

二人がくつろげるこの空間を長く維持するために「物を増やさず、できるだけシンプルに暮らしたい」とMさん。⑤

東側に窓がある玄関や階段は朝陽がつくる木漏れ日や光の乱舞の劇場に。⑥
キッチン設備も山口氏提案のもの。手元を明るくという奥様の望みはモダンなシャンデリアがかなえている。⑦
ホームシアター用の部屋。「機材を揃えるのはこれから」とMさん。⑧
いまは来客用のスペースだが、将来は子供の成長に合わせて仕切ることのできる勉強部屋に。⑨
ブラインドを閉めたり照明を灯したりすると、純白の空間は乳白色や桜色に染まるなど、多彩な表情を見せる。⑩
コンクリートと金属製のフェンスによって、外観はよりいっそうスタイリッシュなものに。⑪
庭側の壁面は黒一色。空手の猛者、Mさんの黒への要望も満たされている。⑫
夜には白亜の2 階部分が暗闇に浮かび上がって見える。⑬

■碇を下ろしたフロートハウス

所在地

和歌山県新宮市

主要用途

専用住宅

家族構成

2人

設計

山口是彦/スタジオクランツォ一級建築士事務所
 担当 山口是彦 小浦孝之

施工

ASJ紀伊・田辺スタジオ
[株式会社リビング建築工房]

構造・構法・規模

木造
地上2階 
軒高 7230mm 最高の高さ 7655mm
敷地面積 317.07m2
建築面積  80.25m2(建蔽率25.80% 許容80%)
延床面積 124.36m2(容積率39.98% 許容400%)
 1階   61.90m2
 2階   62.46m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板たてはぜ葺き
外壁 構造用合板t=9.0 
   窯業系サイディングの上ジョリパット
   目地潰し防汚コート処理(2階LDK 北面 西面)
   耐水石膏ボードt=12.5 
   ガルバリウム鋼板t=0.4縦ハゼ葺き
開口部 アルミサッシュ

主な内部仕上げ

玄関土間
 床 300角タイル
 壁・天井 クロス貼り
玄関ホール
 床 ホモジニアスタイル(4面面取り加工)
 壁・天井 クロス貼り
1階個室1(主寝室)・個室2(子供室)、2F個室3(趣味室)
 床 NODA FLOOR
 壁・天井 クロス貼り
2階LDK
 床 600角タイル貼り(床暖房)
 壁・天井 EP塗装仕上げ

工程

設計期間 2012年2月~2013年3月
工事期間 2013年4月~2013年9月

撮影

水野真澄(表紙 ①②③④⑤⑦⑨)
瀬川正博(⑥⑧⑩⑫)
清水向山建築写真事務所(⑪⑬)

断面図A
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断面図B
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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山口是彦

[大阪市北区]

1974年郡ビルド株式会社入社/1984年株式会社東急ハンズ住宅・店舗デザイン部門入社/1990年建築デザイン工房設立/2001年スタジオクランツォ一級建築士事務所設立

碇を下ろしたフロートハウス
 
 初めて「新宮」という町を訪れ、無計画に市街を歩いてみた。何の変哲もない街、通り。これといった目につく建物もない。
 敷地の周囲に目を向けると東には建物と建物の間に太平洋につながる微かな抜けが見える。北面、南面は隣地の建物が接近し風景を作る素材は見当たらない。しかし、西面は道路を挟んで神倉の山並みを望むことができる。南西には神倉神社が鎮座し、北西には天然記念物でもある「浮島」の小さな森も見える。日差しの方角としてはあまり良いとは言えないが、神倉の山並みと浮島の森をうまく切り取ることができれば、この住まいの顔を作ることができる。
 リビングダイニングがゆったりと空中に浮かぶようなフロートハウス。昼間は建物から少し飛び出した2階部分が存在感を辺りに漂わせ、夜になれば闇に馴染んでいく周囲の黒い箱。ライトアップされた浮遊するような空間は浮島であり、太平洋に浮かぶ屋形船のようにも見える。視線の先には白い内部空間の連窓からシャープに切り取られた神倉山の連なりが絵画のように迫りくる。なんという豊かな空間であろうか。
 光は縦横に建物に侵入してくる。その光をコントロールし、上質の美しい部分を室内に取り入れる東の吹き抜け窓と南に開く階段窓。吹き抜けに直進した光はまるで子供の様に階段の間をすり抜け、1階の廊下や玄関周りに拡散しながら遊ぶ。瞑想しながら精神を統一するためのデッキ。朝から昼過ぎまでの健康な光を浴びながら楽しむヨガの世界。神聖な神倉山と対比する東、南の穏やかな日常空間。そこに住まいの遊び心溢れた豊かで健康的ないくつかの箱をそっと置いてみようと思う。
(設計時のコンセプトより抜粋)

ASJ紀伊・田辺スタジオ

[株式会社リビング建築工房]

スタジオマネージャー:十そごう河唯
 最初にM様と出会ったのは2年前の『未来をのぞく住宅展』のイベントでした。新宮市で精肉店を営まれているご主人と、それを手伝う奥様。新婚のお二人はこれからの家づくりにとても夢を膨らませていました。
 ご夫婦お二人のピュアなイメージと、思い描く家のイメージをマッチさせる為の建築家の選定はそんなに時間はかかりませんでした。山口先生をご紹介させていただき、すぐにプランニングにかかりました。新宮の街を歩き、風を感じ、風景を切り取り、色んな角度から見た家の在り方を考えていただきました。しっかりとしたコンセプトを基に行われた初プレゼンは本当に感動しましたし、今でも忘れられません。
 順調に計画が進んでいく中で、着工前に一度田辺までお越しいただいた際に、弊社の現場をご案内させていただきました。実際に建築家との家づくりで竣工した物件をご覧になったことがなかったM様は、どういう風に家が建っていくのかイメージが湧かず、本当に家が建つのか!? 不安に思っていらしたようです。一棟一棟ご案内する度に、目が輝き、わくわくしている様子がすぐにうかがえました。ご案内後のお話では、施工中の物件を見て自分の家が建つという実感が湧いたようで、弊社に家づくりを任せていただける“安心”へと繋がったのだと思います。
 建築中は、『あの白と黒の建物!!』と新宮の街では誰もが知っているほどインパクトの強い建物として噂になっておりました。
 お引渡しの際も、大変喜んでいただきました。M様ご夫婦の純粋なイメージと、山口先生のコンセプトがぴったりとマッチしたお家を、これからM様の色に染めていただき、子や孫の代まで一生のお付き合いをさせていただきたいと思っております。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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