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ASJ Works Close-up

遊び心いっぱいのキノコ型住宅

大阪府箕面市

箕面の家

設計 安部秀司建築設計事務所
施工 ASJ岸和田スタジオ[株式会社中商]

ごきげんなTさん一家と住まい。

キノコの傘のような2 階部分には、中庭のようなテラスがある。①

 中央のテラスをキッチンやリビングがロの字状に囲んでいる。そんなユニークな空間が広がるのは、なんと二階。キノコのような外観の、傘の部分にあたる。建築家の安部秀司さんが、建主であるTさんの夢を実現しようと、発明した独特の構造だ。さて、その夢とは…。
 「ご近所に迷惑をかけることなく、ジャマイカの音楽『レゲエ』を響かせ、人目を気にすることなく、ジャマイカの料理『ジャークチキン』をつくることです。マンションに住んでいたころは、近くの公園でチキンを焼いていたのですが、周囲の目が気になって、楽しむどころではありませんでした」。
 Tさんが当時を思い出して肩をすくめる。つまりテラスは、レゲエの小気味よいリズムのなかで、Tさんがのびのびとジャークチキンづくりを堪能するためのスペースだった。
 そんなこだわりが詰まったT氏邸は、知れば知るほど、家は住むだけではなく、暮らしを楽しむものであることを改めて教えてくれる。そして、Tさん夫妻の軽妙な会話からは、慎重ながらも、遊び心満載の家づくりが想像できるのである。
 「資料を取り寄せたり、展示場を訪ねたりした工務店は、二〇ヵ所以上に及びます。そのなかから気に入った会社を妻と私のそれぞれが選出。二人のあいだで協議して三社に絞ったあと、プランの作成を依頼しました」。
 Tさんが岸和田スタジオを三社のなかに残した理由は、斬新な施工例が多いことと、岸和田という地域性だという。実は、だんじり祭で知られる岸和田市はレゲエも盛んで、イベントなどもよく開かれる。また、岸和田スタジオが推薦した建築家の安部さんは、生粋の岸和田っ子で、だんじりファイター。Tさんと同年齢という点もよかった。

2階にはテラスを囲むようにキッチン、ダイニング、リビング、ライブラリーなどが広がっている。②

ダイニングからキッチンを眺める。調理台とつながった長いテーブルはパーティなどで活躍しそう。③
読書家の奥様のために本棚が随所につくられている。④

「三社の設計プランのなかで唯一、安部さんの提案が、二階の中央にテラスを置いたものでした。正直、最初は不安でした。テラスが真ん中にあることで二階のスペースが狭くなりますからね」。
 奥様がおっしゃるとおり、テラスがなければ、それだけリビングを広く使うことができる。こうした疑問を抱えたTさん夫妻に、安部氏は模型を見せ、「一度、このなかで暮らしてみてください」と言ったとか。つまり、朝起きてから夜寝るまでをシミュレーションしてみてというわけ。それでもTさん達の不安が消えないときや、新たな要望が出たときは、そのつど、模型をつくり直している。また、岸和田スタジオも、微妙に傾斜が異なる天井板をはじめ、安部氏の意向を確実にカタチにしている。
 「私は、風の流れ、日射しのあたたかさなど、自然を身近に感じたいとお願いしました。また、キッチンに立つあいだも、夫や息子と時間を共有したいとも伝えました。以前のマンションでは、キッチンが奥まったところにあり、夫や息子の笑い声が聞こえてくるたび、寂しい思いをしましたから」。
 そこで、安部氏はキッチンの向かいにテラスやライブラリーを、横にダイニングを配置。また、生活用品を隠したいというリクエストには、食器棚など家具がすっぽり入る収納スペースをキッチンの背面に設けて対応した。
 「私は、ダイニングテーブルがあまり好きではなくて。椅子に腰かけるだけでなく、ときには正座したり、横になったりと、そんなダイニングがいいなと思っていました」。
 こうした奥様の要望に応えるため、ダイニングは床が一段高くなっていて、掘り炬燵になる凹みがつくられている。そのほか、読書が趣味という奥様のために書棚が存分に設けられたり、天井には息子さんの希望であるブランコを吊すための金具が設置されたりしている。
 一方、Tさん一家には、「家づくりもエンジョイしちゃおう!」という気持ちがあったのだろう、一階の壁は家族三人で塗装。安部氏や岸和田スタジオの堀内和人氏にも参加してもらっている。
 キノコの胞子のように遊び心が詰まった家のなか、Tさんがとくに気に入っているのは、やはりオープンなテラスだという。
 「夏は風呂上がりに息子と一緒に夕涼み。見上げれば満天の星空が広がっています。それはまるでプラネタリウム。夕立が降ったときは、ガラスを流れる雨が滝のようで、これもまた一興です」。
 なんともネイチャーな暮らし。そんなT氏邸に最近届いたのが、ジャークチキン用のオーブン「ジャークパン」。テラスに置けば、キノコの傘のなかは、まさにジャマイカ。ジャークチキンを焼くTさんの周りでは、奥様や息子さん、お仲間達がレゲエのリズムに合わせてスウィングすることだろう。大阪府の箕面の森には、愉快な童話のなかのような家が建っている。
(取材/香川泰子)

左はリビング、右はダイニング。「テラスがあることで不便を感じたことはないですね」と奥様。⑤

写真③の反対側からの眺め。ダイニングへの階段は奥様の読書コーナーになることも。⑥
ダイニングの横はリビング。窓に面したライブラリーは勉強部屋になったり書斎になったり。⑦
Tさんがこのジャークパンでウデを振るう日も近い。1 階のデッキ下は収納スペースになっている。⑧
1階には個室や浴室などを配置。家族で塗った壁には記念の手形。⑨
レゲエの名盤が並ぶ1階の個室。Tさんはロックグループのメンバーでもある。⑩
浴室の壁の色はTさんの、二つ並んだ洗面台は奥様のオーダー。⑪
森に静かに溶け込むキノコの家。なかでは宴がにぎやかに。⑫

■箕面の家

所在地

大阪府箕面市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供1人

設計

安部秀司建築設計事務所 
 担当 安部秀司 米田匡志

施工

ASJ岸和田スタジオ[株式会社中商]

構造・構法・規模

木造
地上2階 
軒高 5,660mm 最高の高さ 7,028mm
敷地面積 200.96m2
建築面積  93.06m2(建蔽率32.67% 許容60%)
延床面積  65.65m2(容積率46.31% 許容200%)
 1階   39.20m2
 2階   53.86m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板
外壁 ガルバリウム鋼板、サイディング下地+リシン吹付け
開口部 アルミサッシュ
外構 コンクリート金コテ押え

主な内部仕上げ

寝室
 床 杉無垢フローリング
 壁 漆喰塗り
 天井 クロス貼り
個室
 床 杉無垢フローリング
 壁 漆喰塗り
 天井 クロス貼り
リビング、ダイニング、キッチン、ライブラリー
 床 杉無垢フローリング
 壁 漆喰塗り
 天井 シナ合板
テラス
 床 杉板+キシラデコール塗布
 壁 ガラス

工程

設計期間 2012年 5月~2012年11月
工事期間 2012年12月~2013年 5月

撮影

水野真澄(表紙 ②④⑦⑧⑨⑩⑪)
冨田英次(①③⑤⑥⑫)

2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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断面図A-A'
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断面図B-B'
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断面図C-C'
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断面図D-D'
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安部秀司

[大阪市北区]

1976年大阪府生まれ/2002年京都工芸繊維大学大学院修了後、株式会社遠藤剛生建築設計事務所に勤務/2004年安部秀司建築設計事務所設立/2004年京都造形芸術大学非常勤講師

箕面の家
 
 敷地は、大阪府の北部、山林を切り開いてできた緑豊かな住宅街の一画にあります。Tさんご家族は、旦那さん、奥さん、息子さんの3人です。
 旦那さんは、「レゲエ部」と言って、月一回 後輩たちを連れ、朝まで踊り明かす団体の部長であり、部活動が高じて本場ジャマイカまで行ってしまうほどのレゲエ好きでもあります。そのレゲエをバックミュージックにジャマイカ料理の「ジャークチキン」を焼く場所を熱望されました。
 また奥さんは、たくさんの本をお持ちで奇麗に収納したりディスプレイできるように、また家庭菜園ができることや樹木に囲まれた場所も希望されました。
 菜園や植栽を植える土のスペースを広く取るために、2階よりも1階をひとまわりスリムにしてみました。そうすることでぐるりと軒が回り、収穫した農作物を吊るしたり、農作業の合間に腰掛けて休める縁側のような空間が出来上がりました。
 1階をスリムにした分、2階を少し広くしました。ご家族が集いながらもそれぞれの場所や距離感が保てるように真ん中にテラスを配し、時にはテラスと一体となり外のリビングとしても使えるようになっています。
 また、そのテラスの空を大きくするために、また外観が四角形の強面にならないように、内と外の両方から屋根に勾配をつけてみると、自然に囲まれた住宅街のマスコットのような愛らしい形状に仕上がりました。
 これから菜園が耕され、見たこともないジャマイカの作物が収穫されることでしょう。音楽を聴きながら、外のリビングでの食事を楽しまれる。Tさんご家族にとってピッタリのお家ができたのではないかと思っています。
 引っ越されて間もなく、Tさんから一通のメールが届きました。「テラスでReggaeを聞きながら、ビールを飲んで、ジャークチキンを食べて。明かりを消せば天然のプラネタリウム。興奮した息子は、今日もゴールデンボンバーを踊っておりました。満天の星空の下、女々しくて女々しくて! って」というくだりを拝読し、「そこはReggaeじゃないんだ」と呟いたことは言うまでもありません。

ASJ岸和田スタジオ

[株式会社中商]

クライアントパートナー:堀内和人
 T様との出会いは、資料請求をされてから相談会に申し込まれ、その後見学会に来場しアカデミー会員に入会され土地探しからのスタートでした。土地探しというと中々気に入った土地が見つかるまで時間がかかるのですが、運よく早い段階で土地を見つけ、プランニングコースをスタートすることに。まずはT様の希望を聞いたのですが、ご夫婦共々自分達の住宅に関するコンセプトをしっかりと持っていたので、安部先生との個性がうまく合うのではと思い安部先生を紹介し設計を依頼することとなりました。
 最初の頃は緊張気味だったT様ご夫婦でしたが、打ち合わせの回数が進むにつれ、安部先生とのやり取りの中で存分に楽しんでおられるのが手にとるようにわかり始終にこやかな雰囲気。図面ができたときは「キノコの家!?」が私の感想です。今までの弊社の施工例からは想像のつかない不思議な外観。「いったいどんな家ができるのか!?」私自身も安部先生との打ち合わせをT様以上に楽しみにしていました。
 外からは殆どといっていいほど中が見えませんが、2階へあがると光あふれる空間。
 「ロ」の字型のLDK、その真ん中にはオープンエアテラス。人目を気にせずBBQをしたいと話していたT様夫婦。このテラスではジャマイカ好きなご主人が、現地のソウルフード・ジャークチキンを専用の釜で焼いたり、好きなレゲエを心ゆくまで聴いたりとアウトドア感覚でテラスを楽しむことができます。回遊型のフロアの一部床を上げたり、すっきりとした奥様自慢のキッチン、ダイニングも椅子いらずの掘りごたつスタイルで使えたりとご家族の夢を安部先生が見事に叶えてくれました。安部先生との出会いがなかったら、この建物はできなかったと思います。
 お引き渡しの時にいただいたT様ご夫婦の笑顔が私達作り手の財産です。これからも、この「キノコの家」で笑顔溢れる暮らしを楽しんでいただければと思います。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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