施主様のお話

HOME > 建築家との家づくり > ASJ Works Close-up > 「昔の家」を「今の家」に

SHARE

ASJ Works Close-up

「昔の家」を「今の家」に

和歌山県日高郡

日高の家

設計 福田浩明/福田建築工房
施工 ASJ紀伊・田辺スタジオ[株式会社リビング建築工房]

S さんが思い描く「昔の家」に少しでも近づくよう梁や柱などを見せている。

左側のベージュ色の壁の家は鉄骨3 階建てを平屋にリフォーム。①

おばあちゃんの家を再現

 理想の家を思い浮かべたとき、いつも現れる景色はないだろうか? それが、あなたの原風景かもしれない。ものの考え方や見方、性格などをつくってきた体験が、一枚の絵のように風景となって現れるのが原風景だ。
 「建築家の福田浩明さんから、建てようとする家のイメージを聞かれたとき、『昔の家』『祖母の家』と答えたんです。庇が深くて縁側があり、平屋で、土間が家の奥まで続き、座敷には仏間があって、ヒノキのお風呂は薪を焚いてわかして…」。
 そう語る建て主のSさんは、おじいちゃんと一緒に風呂を焚いた楽しい思い出が忘れられないという。そんな体験によって性格が形成されたSさんは、生まれ育った和歌山県日高川町を常に愛し、今も住み続けておられる。 そんなSさんが、「おばあちゃんの家」を一緒に建ててくれる建築家を探して訪ねたのが、ASJ紀伊・田辺スタジオの「未来をのぞく住宅展」だった。
 「福田さんにお会いして、話をするうちに、自分と同じ臭いがすると思ったのです。福田さんの出身地にも、私の出身地にも、山がつくんですよ(笑)」。
 福田氏が生まれ育ったのは岡山県。実家の建物は元老舗旅館だった。Sさんが感じたように、福田氏はSさんが「昔の家」と表現し、思い描く家をとてもよく理解した。

Sさん念願の薪ストーブも自然に溶け込む現代和風建築。②

梁を見せて建具で演出

 さて、その後、薪で焚くお風呂は実現したのだろうか?
 「家事や子育てに忙しい妻に、風呂焚きを任せることはできず、だからといって、私が仕事の途中で帰るわけにもいきません。残念ながら諦めざるを得ませんでした」。
 日本では、いまや大家族が核家族になり、暮らしそのものが洋風化している。そんななかで「昔の家」をそのまま再現するのはむずかしい。
 「庇を深くしたり、梁など構造材を見せたり、障子や襖など建具を効果的に使ったりすることで、日本建築の特徴を出しながら、Sさんの要望を形にしていきました」。
 木はもちろんのこと、土や紙といった自然素材を活かした和風建築に定評がある福田氏は、Sさんの意図するところを的確に把握し、家族構成やライフスタイル、日高川町の風土を考慮しながら、実現可能な「昔の家」を提案していった。
 例えば、玄関では天井近くに丸太を通して日本家屋としての風格を高めたり、リビングでは屋根の傾斜に沿って登り梁を見せている。
 そんな計らいは、Sさんを満足させるだけでなく、友人をうならせているという。「旅館のようやね」――。Sさん邸を訪れた友人たちは、居心地のよさをそんな言葉で表現する。
 お風呂の薪焚きは実現しなかったものの、リビングには薪ストーブを設置。薪を焚く面白さは、きっと二人のお子さんに伝わるにちがいない。

シンク周辺の壁が高いのでキッチンはスッキリ。③
深い庇の下の縁側ではときどきお茶を楽しまれるとか。この日は福田さんと建築中の思い出話に花が咲いた。④

一〇年、二〇年、三〇年…先を考えた家づくり

 「リビング横の畳のスペースは、子供が成長したころに障子が入れられるよう敷居をつくっています。また、リビングとキッチンの間には戸を入れ、これを閉めればキッチンが廊下代わりになります。子供の成長とともに人が集まるようになったときでも、リビングの客人を気にせずに、寝室などプライベートな空間との往き来がしやすいようにと、仕切っていただきました」。
 以前の住まいでの反省もあり、Sさんの家づくりは、将来をしっかりと見つめた堅実なもの。土地の風習もちゃんと守っておられて、長男であるSさんは、実家からいつかは移すことになるであろう仏壇のためのスペースもつくっている。
 「キッチンでは、私の思いをかなえてもらいました」。
 控え目な奥様が要望されたのは、食料品や日用品が収納できるパントリーをつくることと、チェッカーガラスを入れたつくり付けの戸棚。こうしたセンスのよい収納によって、キッチンは常にスッキリと片付いている。
 そんなSさん夫妻の「お願いごと」に対し、福田氏やASJ紀伊・田辺スタジオは柔軟に対応している。なんと、福田氏が修正を加えたプランは一〇回近くになるという。
 「福田さんにしてもスタジオにしても確立された技術や考えを持っておられるでしょう。しかし、それらを押しつけることなく、私たちの思いに寄り添ってくださった。何よりうれしかったですね」。
 それは建築家にもスタジオにも、住み続けられる家をつくるという信念があるから。「昔の家」を建てるということは、それだけ年輪を重ねられる家をつくるということである。
(取材/香川泰子)

リフォーム部分の鉄骨は板でおおって大黒柱のように。⑤
唯一、寝室の天井だけはクロスに。「意外に落ち着きます」とはS さん。⑥
平屋ならではの開放的な玄関。⑦
戸一枚でリビングとキッチンを仕切ることができるのも和風建築のいいところ。⑧
手前の鉄骨のリフォーム部分よりも新築した平屋は土を盛って床を高くしている。⑨
奥さまがオーダーされたチェッカーガラス入りの戸棚にも少し昭和の香りがする。⑩
天井の丸太が玄関の風格を高めている。⑪
Sさんが木や山野草を植えた庭にはコケが育ちはじめている。⑫
子供部屋も木の香りがただよう落ち着いたつくり。⑬

■日高の家

所在地

和歌山県日高郡

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供2人

設計

福田浩明/福田建築工房
 担当 黒田智

施工

ASJ紀伊・田辺スタジオ[株式会社リビング建築工房 ]
 担当 下山繁男

構造・構法・規模

木造一部鉄骨造
地上1階(平屋建て)
軒高 2,540mm 最高の高さ 4,977mm
敷地面積 338.93m2
建築面積 145.44m2(建蔽率42.9%)
延床面積 135.63m2(容積率40.0%)
  1階 135.63m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板横葺き
外壁 モルタル下地ソフトリシン吹付け
開口部 リクシルデュオPG
外構 デッキテラス 杉足場板XD
   塀 杉板大和張りXD

主な内部仕上げ

居間、食事室
 床 ナラ無垢フローリング 蜜蝋ワックス 一部畳敷き
 壁・天井 クロス貼り
主寝室
 床 カラーフロアー
 壁・天井 クロス貼り
子供室、廊下
 床 杉無垢フローリング 蜜蝋ワックス
 壁・天井 クロス貼り
客間、仏間
 床 畳敷き
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2012年9月~2013年8月
工事期間 2013年8月~2014年1月

撮影

水野真澄(②④⑤⑥⑧⑩⑪⑫⑬)
冨田英次(表紙 ①③⑦⑨)

1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大
断面図A
クリックで拡大
断面図B
クリックで拡大
断面図C
クリックで拡大

福田浩明

[兵庫県西宮市]

1956年岡山県生まれ/1979年京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業後、株式会社汎建築研究所に勤務/1980年株式会社生活空間計画事務所入社/1986年なんばデザイナー学院講師/1987年美建・設計事務所入所 石井修氏に師事/1992年株式会社内藤建築設計事務所入社/1994年福田建築工房設立/1997年兵庫科学技術専門学校講師/2009年~京都橘大学非常勤講師

日高の家
 
 日高は和歌山県のほぼ中央に位置し、御坊の海から龍神の山奥へと繋がる細く広範囲に広がる地域で、みかんと梅の産地でもあります。Sさんはこの土地に生まれ幼少をこの土地で過ごされました。当然のようにその要望は、平屋の住まいを造りたい。懐かしいと感じる家にしたい。さらに、木肌の見える和の雰囲気。縁側、仏間、畳の間、軒の深い落ち着いた住まい等々。具体的なイメージをしっかりと描いていらっしゃいました。敷地の中には既に鉄骨の3階建ての住まいが建っていて、しかもおくに長い変形地です。Sさんからの更なる要望はこの鉄骨の建物を活かせないかとのことでした。確かにコストを考えれば解体も容易ではなく、一階部分の鉄骨と基礎を残し利用することを提案し、プラニングがスタート。こうした条件から、結局1年がかりで設計が完成。
 横葺きの屋根が奥へとつながり平屋ならではの水平線が美しい住まいです。草木を眺めながら玄関に向かう景色もおちつきを見せ、玄関を開けると左手に大和塀に囲まれた和の庭と太鼓梁のかかる天井があらわれます。鉄骨部分を改装した和室と仏間からもこの和庭を眺めることができ、リビングに入ると檜の大黒柱と芝を敷いた少しモダンな庭が目に入ります。こうしたさまざまなシーンは毎日の生活の中に楽しみを付加し。庭との関わりは1年を通し四季の楽しさを教えてくれます。しかもこの庭はSさんの手によって日々成長しているのです。Sさんが自ら芝を張り石を敷き移植され弱りかけていたシマトネリコも復活させました。こうした思いとこだわりは住まいにますます磨きをかけすばらしい棲家へと昇華して行くことでしょう。

ASJ紀伊・田辺スタジオ

[株式会社リビング建築工房]

スタジオマネージャー:十河唯
 S様との出会いは2011年11月19日、第4回未来をのぞく住宅展にご参加いただいた時でした。その年の3月にオープニングイベントを開催したのですが、その時から行ってみたいと思っておられたそうです。当日ご入会をされたのですがその年の9月の台風水害で建替えようと考えていた自宅が浸水し、建替えか住替えかを少し考えたいと建築家は決めずに帰られました。
 建築家を決められたのは翌年の3月、6回目のイベントに参加された時福田先生に決定されました。その後基礎を高くした上で建替えをすると決定、プランニングを始めていくことになりました。
建替えといっても今のお住まいは基礎のしっかりした重量鉄骨の3階建。S様から頂いたヒントをもとに福田先生が見事に匠の技で答えました。
 その重量鉄骨3階建の1階部分のみを残してそこをお子さまの部屋とお父様がくつろげる和室にビフォーアフター、スキップ階段を登れば平屋の新築がある……そんな和モダンのご提案にS様ご夫婦は大満足! 入念な実施打合せが約半年間続き着工となりました。
工事中もS様ご夫婦と福田先生、担当監督との現場打合せを頻繁にしていただき、ご満足いただける結果になったと思っております。
 お引渡しが終わってご主人に聞かされたのですが、あれだけ嫌がっていた薪ストーブの世話を今奥様がされていると! 大変ユニークでほのぼのとしたご家族の生活が垣間見え、S様ご家族と家作りが出来て本当に良かったとつくづく感じました。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

会員登録(無料)すると、
会報誌「A-Style Monthly」を毎月お届けいたします。

関連記事

RELATED POSTS

ASJ会員登録のメリット

BENEFITS

設計プランの第1歩

会報誌をプレゼント

イベント・セミナーへのご招待