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ASJ Works Close-up

新・「離れ」で非日常を謳歌

滋賀県大津市

野郷原の家

設計 進藤勝之/Atelier SETTEN(アトリエ セッテン)
施工 ASJ大津スタジオ[大輪建設株式会社]

まるでトレーラーハウスのようなシンプルな外観。①

一五坪の敷地に広がる別世界

 隣の土地は相場の倍を払っても買いなさい、借金してでも買いなさいとは、よく言われること。それほど隣地の価値は高いのだろう。
今回紹介するU氏邸は、まさに、その利を得た住まいである。
「一軒分はいらないけれど、半分でよければと、売られることになったお隣さんの土地を両隣で分け合い、一五坪ほど購入しました。利用目的のない衝動買いでしたが、その決断は正しかったと思っています」。
建主のUさんが、隣地を手に入れた経緯を教えてくださった。
間口三・五メートル、奥行き八・五メートル、高さ六・三メートル。屋内に入って驚くのは、こうした数字からは想像できない開放感と、林間のコテージを思わせる木質感だ。
杉板の扉を開けると、そこはUさん夫妻が愛用するロードバイクのストックスペース。さらにその奥に進むと、一階、中二階、二階のスキップフロアの大空間が広がっている。
杉の無垢材の床や、構造用合板の壁からは、木材ならではのあたたかさが伝わってくるものの、全体にモダンな印象を受けるのは、吹き抜けをタテに貫く耐力壁と、表面に貼られたグレーのフレキシブルボードがアクセントになっているからだろう。
二階の二メートル四方の大きな窓は、朝は清々しい青空を、夜は満天の星空を切り取り、高原にいるような錯覚を与えてくれるという。

木造のあたたかさを活かしながら鉄骨のような強さを持たせたSE 構法の大空間。フレキシブルボードで仕上げられた耐力壁が縦横に貫くリビングには、Uさん憧れのソファ「アルフレックス マレンコ」がスマートに収まっている。②

一〇歩の旅で日常から非日常へ

 「ログハウスでも建てようか」――。隣地の購入後、Uさん夫妻の間では、そんな話が出るようになったという。
「還暦を前にして、人生の下り坂の楽しみ方を模索するようになりました。一つ屋根の下に両親と長く暮らしていることもあり、また、子供達が巣立ったあとでもあったので、僕達だけの家を持ってもいいのではないかと思うようになったのです」。
一年に一度は訪れる信州で別荘を、また、地元の琵琶湖の湖畔でマンションを購入することも考えたが…。
「少しでも離れていると、利用頻度が少なくなり、家財道具も揃えなければなりません。隣なら毎日でも通えて、私達の好きな物だけを飾っておくことができますよね」。
奥様がおっしゃるように、さまざまなイタリア料理が誕生するキッチンにはいろいろなオリーブオイルの瓶が並んでいるけれど、味噌の壺はない。ダイニングにはワインセラーが置かれているが、一升瓶はない。そして、中二階のリビングには長年愛用のオーディオセットとレコードのコレクション。そう、週末ごとに訪ねる「離れ」は、非日常を謳歌するための空間なのである。
だから、この別棟には母屋との間に通路がない。母屋の玄関を出発し、一〇歩ほどの距離を歩く間に、日常から非日常へと心のスイッチを切り替える。重厚な扉の向こうには、趣味の世界が凝縮されている。

自転車庫の奥の扉を開けると吹き抜けの大空間と奥様の笑顔が待っている。③

どの部屋にいても互いの存在感が感じられるのはスキップフロアならでは。④
2階は寝室に。週末の朝は信州のコテージにいるような錯覚のなかで目を覚ます。⑤

非日常を演出する一〇の素材

 ではなぜログハウスではない? 一五坪の広さでは、思うような居住性を得ることがむずかしかったから。そこでUさん夫妻は、ある工務店に設計を依頼。しかし、標準的な二階建てプランは、夫妻の要望をきちんと反映していたものの、どこか物足りなさが残った。そんなときに知ったのが、ASJ大津スタジオが主催するイベントで、会場で出会ったのが建築家の進藤勝之氏だった。 
「実は、そのときの展示パネルの作品は和風建築が多く、僕の好みではありませんでした。しかし、早々に提案してくださった建築模型を見て、彼の可能性にかけてみようと」。
 そんなUさん夫妻の思いに応えるべく、進藤氏と大津スタジオは、理想の非日常を届けるために総力を結集。幸い、大津スタジオは頑強なSE構法を得意とし、限られた敷地でも、木造でのスキップフロアを実現。そして、進藤氏は「クロスは貼りたくない」というUさんの要望から発想を得て、素材そのものの魅力を見せるプランを提案した。
 外壁はガリバリウム鋼板、自転車庫の床はモルタル、屋内の床は杉の無垢材、壁は構造用合板、耐力壁はフレキシブルボード、オーダーのキッチンはステンレス、窓枠はアルミ、ガラスはフロスト、庇や手すり(の金物)はスチールと、一〇種類近い素材がバランスよく配されている。

③の写真のキッチン側からみた景色。「テーブルを囲む人、階段に腰かける人、中2 階でくつろぐ人を眺めているのが幸せ」と奥様。⑥
リビングへは半透明のレースを通してやわらかな光が差し込む。⑦
次のツーリングに備えての点検もまた楽しい。深い庇によって雨の日もまた面白い。⑧

若いころに貯金を費やしたという貴重なアンプが味わい深い音を響かせている。⑨

充実の「離れ」ライフを実現

 構造用合板は、建物の構造で主要な部分に使う合板のこと。これを内壁に使うという発想に、Uさんは面白いと思ったが、奥様は少し不安を覚えたという。
 「壁紙の貼り忘れ? と誤解されないかと(笑)。でも、目地を合わせるなど貼り方を工夫した丁寧な仕上がりに、そんな思いは消えました。いまは汚れも味わいに変えるこの壁が、どのように変化を続けるかが楽しみです」。
 進藤氏や大津スタジオは、建主さんが納得しないうちは前へは進まない。それは打ち付けるビス一本でもそう。また、進藤氏は、建主の思いを設計図でカタチにするだけでなく、着工後も一緒につくり込んでいくことを常としている。
 「家づくりの過程が充実すればするほど、建主さんはその家に深い愛着をもたれますからね」。
 そのとおり、Uさん夫妻はこの離れで過ごす時間をとても大切にしておられる。例えば芳名帳もあり、週末ごとに訪れるさまざまな友人のサインが踊っている。家づくりのメンバーも、竣工祝いや定期点検などの折に夫妻の手厚いもてなしを受けてきた。「下宿屋のお母さんになりたかったの」とおっしゃる世話好きの奥様の横では、いつもUさんがお気に入りのワインを手にほほえんでおられる。
 豊かな経験や知識を話題に、世代を超えた交流が広がる。それこそが新・「離れ」生活の景色なのだろう。
(取材/香川泰子)

夜は昼間以上に別世界となる。⑩
「Uさん夫妻からは学ぶことが多すぎて」と進藤氏。階段の隙間から漏れてくる冬の日射しが心憎い。⑪
ファーストプレゼン時の模型。進藤氏は1週間ほどで仕上げて提案したという。⑫
耐力壁にフレキシブルボードを貼り付けたことでギャラリーのような空間に。⑬
ダイニングキッチンから天井を見上げると…。約2 層分の吹き抜け空間が、敷地や構造以上の広がりを演出している。⑭
断面パース。中央に配した吹き抜けを巡る階段とスキップフロアを持つ空間構成。

■野郷原の家

所在地

滋賀県大津市野郷原

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦

設計

進藤勝之/Atelier SETTEN 一級建築士事務所
 担当 進藤勝之、菅野勝友

施工

ASJ大津スタジオ[大輪建設株式会社]
 担当 中関淳一、衛藤優子
大工 小林敏也

構造・構法・規模

木造(SE構法)
地上2階  
軒高 6,120mm 最高の高さ 6,350mm
敷地面積 49.29m2
建築面積 29.57m2(建蔽率59.99% 許容60%)
延床面積 56.54m2(容積率114.7% 許容200%)

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板
外壁 ガリバリウム鋼板
開口部 アルミサッシュ

主な内部仕上げ

リビング
 床 杉板
 壁・天井 構造用合板
ダイニングキッチン
 床 杉板
 壁 フレキシブルボード、構造用合板
 天井 フレキシブルボード
自転車庫
 床 モルタル
 壁・天井 構造用合板
寝室
 床 杉板
 壁 構造用合板
 天井 構造用合板、フレキシブルボード

工程

設計期間 2013年3月~2013年 7月
工事期間 2013年8月~2013年12月

撮影

水野真澄 (表紙 ①③④⑤⑥⑧⑨⑪⑫⑬)
平野和司 (②⑦⑩⑭)

1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大
2階平面
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進藤勝之

[大阪市中央区、広島市安芸区]

1969年広島県生まれ/1993年広島工業大学工学部建築学科卒業後、株式会社アイ・エフ建築設計研究所に勤務/1997年株式会社彦谷建築設計事務所入社/2007年Atelier SETTEN 一級建築士事務所設立/2012年大阪工業技術専門学校非常勤講師

野郷原の家
 
 自宅横の敷地を隣り合う者同士で分け合って購入した約15坪程度の小さな敷地。そこにUさんの趣味である自転車、料理、ワイン、音楽、そして集いのためのサロン的空間を求められました。
 切り分けられた土地のポテンシャルを最大限に引き出すため、間口3.5m×奥行き8.5mのフットプリントを最大限に確保し、その中央に配置した吹抜けを巡る階段とスキップフロアをもつ空間構成としました。床のレベル差と構造上現れる耐力壁によってゾーニングすることで、一体感や開放感を損なうことなく空間をやわらかく分節しています。例えるなら「階段室」のような空間構成で、それぞれ機能を持つ床は「踊り場」といったところでしょうか。
 内部は杉や構造用合板、フレキシブルボード、ステンレス、モルタルなど表面と内部が同じものでできている「素」の材料を用いることで、この住宅の骨格自体が空間構成となっていることを損なわないようにするのと同時に経年変化によって味わいが増すような仕上げを選定しました。単純な形を持つ開口部は必要性に応じて大きさと形式、そして配置が決められ、ガラスの種類やケースメントによって外部との関係をコントロールしています。
 今回の計画を一つの住宅として考えれば、終の棲家とも違う、どこかクオリティーとゆとりのある生活を支える趣味性の高い住宅ではありますが、すこし距離をおいて考えてみると都市近郊にあるニュータウン的な住宅地に今後の可能性を開く新しい「離れ」のありかたでもあるような気がします。Uさんが選択されたこの住宅での生活が、ひとつの街のありかたとして広がっていくことを期待しています。

ASJ大津スタジオ

[大輪建設株式会社]

クライアントパートナー:衛藤優子
 U様ご夫婦との出逢いは2013年2月の滋賀県立近代美術館でのイベントのことです。
自宅横の土地を隣あう同士で購入して、約15坪の敷地を手に入れられたというお話を伺いました。その時、すでに別の会社でプラン提案を受けておられたのですが、せっかくの家づくりなので、イベントに参加されていた進藤勝之先生にお話を聞いていただいたところ、意気投合されました。
 イベント期間中に敷地を確認後、2月末にはプラン提案が行われ、そのプランと模型をご覧になったU様ご夫婦はそのままプランを進められ、3月には設計契約というスピード展開でした。それからは濃密な打ち合わせが行われ、工事が始まってからはU様のお取り計らいで、建主+設計+工事で幾度となく石山の町でワイン片手に懇親させていただきました。
 それは竣工してからもさらに続き、3月のお披露目、7月の半年点検とお招きいただき、U様夫妻の手料理でおもてなししていただきました。
敷地を最大限有効に活用できる空間がつくれるということで、進藤先生が選んでくださったのがSE構法。間口3.5m×奥行き8.5m×高さ6.3mの総2階の大空間の中央には、耐力壁が配置され、吹き抜けを巡るようにダイニングキッチン、リビング、寝室の3つのフロアは、半階ずつ展開していくスキップフロアで緩やかにつながっています。
SE構法の集成材の梁の中央に渡るフレキシブルボード。床は杉の無垢板、壁には構造用合板という木質材。両者のコントラストも美しく、経年変化によって味わいの増す空間になっていくのがとても楽しみです。
こんな楽しい家づくりに参加できましたことをU様と進藤先生に心より感謝するとともに、その素晴らしさをより多くの方にお伝えできればと思います。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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