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ASJ Works Close-up

100年分の家族の思い出を未来へと大切に伝える家

新潟県糸魚川市

翡翠の家

設計 倉島和弥/RABBITSON一級建築士事務所
施工 ASJ新潟上越スタジオ[株式会社笠原建設]

凹みに玄関ドアを設置することで風雨を避けるスペースが生じた。①

焼き杉板と白壁のコントラストが美しい、モダンな和風建築。すっきりと清廉な印象の白木のドアを開け、玄関へと一歩、足を踏み入れる。すると、なぜだろう、不思議なぬくもりが感じられるのだ。
「築一〇〇年を超える実家を次世代に残したかったんです。我が家は地元では本家。盆や正月には家族や親戚が集まって一緒に過ごしますし、先祖が代々守ってきた神棚もあります。建て替えという選択肢もあったのですが、今では手に入れるのが難しいような貴重な建具や柱もあることだし、今あるものを極力生かしてリフォームしようと決断しました」と、建主であるSさんは話す。
しかし、いざ始まってみると、一世紀もの時を経た家のリフォームは困難に満ちていた。躯体は歪み、柱は傾き、床下はシロアリの被害を受けていた。あるときは畳を突き破ってタケノコが生えてきたこともあるという。そして、七〇坪もの大きな家であること、予想以上に修復が必要だったこと、諸々の理由により予算を大幅にオーバーしてしまう。そこで、床面積を減らす減築という方法をとることになった。
しかし減築したことでメリットも生じた。建物のど真ん中に位置する、家族や親戚が集まるための居間。以前は、南側に三部屋あり、そのため居間にはまったく光が入ってこず、日中も暗かったのだが、南側全面に窓を備えた縁側代わりのサンスペースとしたため、明るく暖かな空間となった。

北側からの外観。しっとりとした焼き杉板の墨色が建物に風格と趣を与える。②

以前は日中でも暗かったという1階の居間。左手のサンスペースと新設した明かり取りの窓から、たっぷりと陽光が差し込む。年代物の柱時計は今も現役だ。③

障子の細工が美しい。風情ある建具も、いわばこの家の宝のひとつだ。④
減築した茶室の天井を一部再利用。今回新しくした部分は塗装せずに白木のままとした。⑤

「居間も台所も、ずいぶん明るくなりました。台所なんて、昔は土間でしたから。それに、どこも窓からの隙間風がひどかったので、冬は寒かったですね。今は壁の断熱材のおかげか、居間のペレットストーブひとつで、台所脇の階段を上がってすぐの私の寝室まで暖かいんですよ」とSさんのお母様。
床暖房は入れていないが、株式会社笠原建設推奨の厚さ三〇ミリの杉板のおかげで、ひんやりすることもないという。また、板張りにしたことで、畳の張替えなどの手入れが不要になるという特典もあった。つまり、今後住み続けていくための快適性とともに、利便性をも同時に叶えているのだ。
また、このS邸のプロジェクト、スタートは当時Sさんがお住まいだった京都で開催された建築家イベントだったという。その後、東京へお引越しされたあとは、打ち合わせはASJ東京本社で行われた。
「遠く離れた実家をリフォームすることになったとき、何から手をつけていいのか分かりませんでした。そこにASJが親身になって完成までの道筋をつけてくれたおかげで、今の家があるんだと思います。倉島先生も東京から何度も足を運んでくださって。感謝してます」とSさん。
多い時には九人が暮らしていたというS邸。住んでいる家族の数が多ければ多いほど、家のなかに残る思い出の数も多くなる。

南側の座敷は、盆や正月に家族や親戚が集まった際に客間として使われる。襖はもとからあったものを、紙を張り替えて使用。地板と床柱は減築した茶室のもの。⑥

「ダイニングと居間の間にある、この太い柱は、子どもたちが裸足になって登ってたんですよ。居間と二階の段差も、襖を開け放つとひとつながりになる座敷も、みんなの遊び場でしたよ」とお母様は懐かしそうに笑いながら話してくれた。S邸には、立派な柱や建具とともに、子どもたちが貼ったのであろうシールや九九表も、そのまま残されている。家族が、この家で生まれ、育っていった軌跡が、そこここに残っているのである。家に入った瞬間に感じた不思議なぬくもり、それは、家族をやさしく包み込み、見守りながら生きてきた家がもつ、体温のようなぬくもりだったのだろう。

(取材/吉田桂)
薬店を営んでいた頃の看板。⑦
貴重な青森ヒバの桟木も。⑧
思い出の九九表はそのまま。⑨
居間の柱にシールを発見。⑩
襖の引き手の細工も見事。⑪
居間には立派な神棚が鎮座している。水を替えるときは専用の梯子で。⑫
組子細工の障子は別の部屋で使われていたものを幅と高さを詰めて再利用。⑬
時代を帯びた梁や天井が現しとなっている様子も面白い。⑭
ダイニングキッチンは、2 階床をはがし吹き抜けにして開放感を確保。⑮
南側からの外観。吹き抜けに設けられた明かり取りは、小さいながらも効果を発揮。⑯
南側にはスロープ付きの出入口を設置。⑰
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■翡翠の家

所在地

新潟県糸魚川市

主要用途

専用住宅

家族構成

母+夫婦

設計

倉島和弥/RABBITSON一級建築士事務所

施工

ASJ新潟上越スタジオ[株式会社笠原建設]
 担当 滝川純一
 監督 大滝亨、齊藤洋平

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階  
軒高 4,520mm 最高の高さ 6,220mm
建築面積 137.22m2|before 171.00m2
延床面積 174.80m2|before 225.66m2
  1階  136.10m2|before 171.00m2
  2階   38.71m2|before  54.65m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板カバー工法
外壁 防火サイディングアクリルリシンガン吹付
   焼き杉板張り
開口部 アルミサッシ 木製製作玄関ドア
外構 土間コンクリート 桧デッキ 一部RC塀

主な内部仕上げ

玄関/玄関ホール
 床 土間コンクリート海岸玉石埋込/越後香素杉®t30
 壁 漆喰塗り
 天井 既存2階床現し
DK・リビング・サンスペース、個室101・102
 床 越後香素杉®t30/本畳
 壁 漆喰塗り/京壁塗り
 天井 既存2階床現し・既存天井・エコクロス貼り/既存天井
個室103、納戸
 床 越後香素杉®t30
 壁 クロス貼り
 天井 既存2階床現し
2階ホール、個室201・202
 床 越後香素杉®t30
 壁  クロス貼り
 天井 クロス貼り

工程

設計期間 2013年05月~2013年09月
工事期間 2013年09月~2014年10月

撮影

長谷川潤(表紙 ②③④⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫⑭⑮⑰)
松本保(①⑤⑬⑯)

After 2階平面
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After 1階平面 縮尺1/200
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Before 2階平面
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Before 1階平面 縮尺1/200
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倉島和弥

(埼玉県所沢市)

1955年栃木県生まれ/1979東京電機大学工学部建築学科卒業後、芦川智建築研究室等を経て、1984年企画設計室RABBITSON設立/1987年東京デザイン専門学校 インテリアデザイン科講師(~2001年)/1991年有限会社RABBITSON一級建築士事務所に改称/1996年~昭和女子大学環境デザイン学科 非常勤講師

翡翠の家

定年後、一人暮らしのお母様の元へご夫婦で戻るためのリフォームです。最新の増築部が昭和4年。100年以上の歴史ある建物。最初に都内でお話を伺った時に、この建物を活かしたいという思いが伝わってきました。
スタジオ建設部の方々とお邪魔したとき、何よりお母様が「何処の誰さんね」と彼らの実家を知っていたり、地域の活動で知り合いだったりとすっかり打ち解けてしまったことが、今回の工事の成功に繋がったと思います。人の繋がりこそ本来の家づくりだなぁと感じたのです。
建物は確かに古いモノでしたが柱が欅だったり、大きな梁や細かい細工の建具など捨てがたい宝の山でした。これを活かしきらなければ、そんな思いでした。
「あるモノをそのまま活かしきる」それがコンセプト。
建具も材料も再生再利用。減築と復元、復活と延命。虫に食われたり破損箇所もありましたが、職方達は工夫と技術でカバーしてくれました。建具に貼られた九九表や柱の「0戦はやと」(?)のシール。家族の歴史だけでなく、建主幼少時の思い出もそのまま残しました。堅い職業を勤めたS氏の賑やかな幼少期も目に浮かぶようです。
新しく付け加えたり補修した箇所は、色を合わせず白木のままにしました。新旧がわかるようにすることと、徐々に追いついていく変化を楽しめるように考えました。床は畳レベルに合わせ、新潟上越スタジオ(株式会社笠原建設)が県産材の杉から作っている低温乾燥超かんな仕上げの香素杉。厚さ30㎜です。ノーワックスで香りを愉しみます。
背の高いS氏には低すぎる建具と梁ですが、住み慣れたこの建物での第二の人生はきっと充実したモノになると思います。
これから50年、100年後、今回のリフォームの真価が問われます。

ASJ新潟上越スタジオ

[株式会社笠原建設]

クライアントパートナー:齊藤洋平

今回御縁があり担当させていただくにあたり、築100年以上の民家の改修ということで、建主S様の愛着あるお宅を倉島氏の設計を基に、施工の立場から試行錯誤しながらもお手伝いさせていただきました。
春の解体から始まり、大工工事、塗装工事と夏の炎天下の中、汗を掻きながらも技術を駆使して携わった各職方の顔が浮かんでくると共に、毎日のようにS様と打合せを行ったことが、今は懐かしくも思えます。
初めて現場に赴いた時の記憶ははっきりと覚えており、足を一歩踏み入れた時のどこか懐かしい匂いや昔ながらの圧倒されるほどの大きな小屋梁、床下に隠れていた囲炉裏、何年もの間S様と時を過ごしてきたこれら一つ一つの思い出や味を生かしながらの改修ということで少なからず不安もあると同時に、やりがいを得ることもできました。
古民家ということで不陸や歪みがあり、工事を進めては中断し、棟梁との打合せ・検討の繰り返しで工事期間6ヶ月という長丁場になりました。また、改修前は開口部も少なく、通風や採光の面でも閉塞感がありましたが、キッチンの吹き抜けや多くの開口を設けたことにより改善され明るく温かみのあるお宅に生まれ変わりました。竣工説明時の内覧で建主様の喜びや感謝の意を頂けたことを喜ばしく思います。
S様の喜んだ姿を拝見し、この仕事に携わることができて良かったです。これから先長い年月を経て、S様にとってより一層愛着あるお宅になることを願うと共に、一人の技術者としていつでも建主様をサポートできる存在でいたいと思います。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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