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ASJ Works Close-up

保存地区で家を建てる

高知県安芸市

土居廓中(どいかちゅう)の家

設計 鈴江章宏建築設計事務所
施工 ASJ土佐南国スタジオ[株式会社公文建設]

縁側は夫婦や子供、ご近所さんたちとの縁も強めていくだろう。

生垣を整えるまでの、O邸ならではのワイルドなシーン。耐久性に優れた土佐漆喰のように、家族でたくましく伝統を守っていく。①

重伝建地区に選定されて

 実家の隣で新築をと考えていたら、その地域は外壁のつくり方などを規制した「重要伝統的建造物群保存地区(以後、重伝建地区)」に選定されてしまった――。
 手頃な価格の古家をリフォームしIターンをと思ったら、そこは重伝建地区で、増改築にもさまざまな規制が設けられていた――。
 こうした経験を持つ会員の方は少なくないのでは? なにしろ重伝建地区は、全国90市町村の110地区(2015年7月現在)に広がっているのだから。今回、紹介するOさんもその一人。数々のハードルを乗り越え、こうした地区での家づくりを実現させた、地元ではパイオニアとして知られる建て主さんである。
 ところで、重伝建地区とはどのようなところだろう。
「かやぶき屋根の集落、土塀や生垣に囲まれた武家屋敷、土蔵づくりの商家が並ぶ町や村などを、貴重な文化遺産として指定し、国や市町村が条例などを設けて維持していこうという地区のようですよ」
 Oさんのわかりやすい説明を聞いて、ナルホド。たしかに、OさんがUターンを望んだ「土居廓中(どいかちゅう)」も歴史的価値が高い地域。山内一豊の家老が、安芸城の周囲に築いた城下町で、いまも古瓦が積み重なる「練り塀」や、ドヨウダケやウバメガシの生垣が、落ち着いた家並みを彩り、耐久性に優れた土佐漆喰の壁が、武家屋敷としての品格を高めている。

屋内は外観から想像できないような洋風のつくり。三角形の天井が開放的。「天井に埋め込まれた照明がおしゃれ」と、小学2年生の長男君。②

運命的な出会いに感謝

 では、安芸市が「土居廓中」を守るために、新築や増改築の際に設ける基準とは、どのようなものだろう。保存計画書には「屋根は切妻づくり、あるいは入母屋づくり、寄棟で、日本瓦(灰色)桟葺とする」「外壁は漆喰や板壁などの伝統的な形式仕上げにする」とある。
 実は、この地区が重伝建に選定されたのは、Oさんが「子供の小学校入学までに、実家の隣で家を建てるぞ」と決めた矢先、2012年7月のことだった。これには、郷土愛の強いOさんも、頭を抱えてしまった。
「そんなときに、建築家の鈴江さんと出会えたことは、とてもラッキーでした。そして、鈴江さんをメンバーに加えた建築家展を開催し、僕に声をかけてくれた、土佐南国スタジオには心から感謝しています」
 藁にもすがる思いで出かけたそのイベントで、Oさんは、とにかく純和風の家を得意とする建築家を探したという。そのなかで目にとまったのが、鈴江氏の作品パネルだった。
「鈴江さんに、規制がある地区で新築を考えていると相談したところ、『それは土居廓中ではないですか?私はそこの調査に携わったんですよ』という答えが返ってきました。その瞬間、目の前がパッと開けました」
 その後、鈴江氏は、調査などで得た知識をもとに、限られた期間で数々の条件をクリアし、なおかつOさんが理想とする家を、その地区ならではの特典を活かしながら、完成させていく。

武家屋敷の家並にふさわしい門構え。ハーレーが停まっていることは誰も気づかない。③
バイクに乗ったまま入ることができるよう格子戸の幅を調整。土間は高知県産の砂利「南国砂利」を使い、伝統的な洗い出しに。④
Oさんお気に入りの裏庭の縁側。庇を深くしたことでより落ち着けるスペースになった。⑤
堀が残る屋敷町には切妻屋根がよく映える。⑥

補助金の制度を有効活用

「規制があるといっても、建具は茶色であればアルミサッシでもOKです。でも、わが家の建具の大半は木製。そのほか、外壁に土佐漆喰を使ったり、屋内外ともに高知県産の木材を選んだりと、どちらかといえば自ら条件を厳しくしています」
 それは、Oさん夫妻が持つ郷土に対する誇りや、慣れ親しんだ風景を次代に残すという使命感あってのことだろう。しかし、そのぶん建築費はかさんだのでは?
「一定の条件を満たすと、自治体から補助金が出ます。鈴江さんはこうした制度も熟知され、負担が少ない方法を提案してくださいました」
 奥様がおっしゃるように、重伝建は補助金制度がある。また、それだけでなく、固定資産税などの減額もある。それなら、移り住むにはよさそう。なにしろ屋内に関しては規制がないのだから。
「間取りは、家族が帰宅したときや外出時に、必ずリビングを通るようなものにと、お願いしました」
 それは、子供たちのわずかな変化も見落としたくない、また、常に家族の存在を感じていてほしいという強い思いがあってのこと。
 一方、門から玄関までは、屋根つきの駐車スペースに。
「格子戸の幅はバイクに乗ったまま入れるよう広くしてもらいました」
 ハーレーダビッドソンを愛するOさん。そんなワイルドなライフスタイルも、鈴江氏によって、歴史的な町並みにしっとりと馴染んでいる。

住文化も継承する

「夜、外から眺めるわが家は、あたたかみのある明かりが障子を照らし、見とれるほど美しいのです。また、家のなかを渡る、どっしりした梁には安らぎを感じます」
 奥様が、そんな日本独特ともいえる建築美について感想を述べられる。
 一方、裏庭の縁側は、Oさんのお気に入り。深くとった庇の下で、雨を眺めながら一服するOさん。その背中は、きっと、子供たちの記憶にいろいろな父親像を残すに違いない。
「ただ一つ、苦労していることがあるんですよ。それは台風のとき、何枚もの雨戸を閉めなければならないこと。また、通過後もしばらくはそのままにして、乾燥させてから戸袋に仕舞うことですね」
 そう話す奥様の表情は明るい。それは、たぶん、シャッター式の雨戸では味わうことのできない、日本ならではの習慣を、子供たちと賑やかに楽しんでおられるからだろう。
「床材には杉板を使っています。鈴江さんによると、柔らかいこの木は使い込むほどに味がでてくるとか。物を落下させるなどの失敗やアクシデントが、キズではなく、思い出や教訓として、味わい深いものとなることを期待しています」
 そんなOさんの言葉に、重伝建地区は、町並みのカタチを守るだけでなく、そこに暮らす人の文化や、家族への思いを守り伝えるためのものだと気づいた。どうか、こうした文化遺産が各地でも守られますように。

(取材/香川泰子)
地域の特徴を取り入れた妻面のデザイン。堅羽目板張と土佐漆喰塗と面格子の組み合わせ。⑦
土居廓中で最古の武家屋敷「野村家」は新築する際の教科書的な存在。⑧
床の間のある和室や、仏壇用のスペースはOさんのオーダー。「早く生垣をつくり、人目を気にせず縁側でのんびりしたい」とは奥様。⑨
子供部屋の窓の面格子は「デザイン性だけでなく西日を遮るなど機能性も高いんですよ」とOさん。床材には高知県産の杉板がふんだんに使われている。⑩

■土どい居廓かちゅう中の家

所在地

高知県安芸市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供2人

設計

鈴江章宏建築設計事務所

施工

ASJ土佐南国スタジオ[株式会社公文建設]
 担当 濱渦康典

構造・構法・規模

木造在来工法
地上1階  
軒高 3,350mm 最高の高さ 5,510mm
敷地面積 734.50m2
建築面積 161.36m2
延床面積 143.32m2

主な外部仕上げ

屋根 日本瓦葺き
外壁 土佐漆喰塗、腰 杉竪羽目板張
開口部 木製建具、一部アルミサッシ

主な内部仕上げ

居間、食堂、台所
 床 杉板t30張自然塗料塗
 壁 しっくいクリーム塗
 天井 EP塗
和室
 床 畳敷
 壁 土佐和紙張
 天井 杉中杢化粧板張
子供室 
 床 杉板t30張自然塗料塗
 壁 ビニルクロス貼
 天井 ビニルクロス貼

工程

設計期間 2013年 6月~2013年11月
工事期間 2013年11月~2014年 3月

撮影

水野真澄(表紙 ①②③④⑤⑧⑨⑩)
神明亜輝(⑥⑦)

1階平面 縮尺1/300
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鈴江章宏

(高知県香美市)

1973年高知県生まれ/1997年法政大学工学部建築学科卒業/2007年鈴江章宏建築設計事務所設立

 Oさんとの出会いはたいへんご縁を感じるものでした。というのは、敷地のある安芸市土居廓中は、江戸時代からの武家屋敷の町並みを残す歴史的な地区であり、保存対策としての調査に私も調査員として参加した、思い入れのある地区だったからです。土居廓中は2012年に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、O邸は保存地区選定後の最初の新築物件となりました。
 小原邸はこの地区に残る幕末期から明治期の伝統的な建物の外観や空間構成を参考に修景に配慮しながらつくっています。平屋建て、切妻屋根、いぶし銀和瓦、外壁は土佐漆喰塗と杉竪羽目板張、木製建具で構成しています。玄関前は門をつくり、アプローチをとっています。またこの地区の建物の特徴で妻面にシトミ又はモヤカクシとよばれる板があります。風雨からの保護、消耗品として扱われて、それが意匠的にも大きな特徴となっています。O邸でもシトミを保護材としてもデザインとしても取り入れています。
 内部については保存地区の規定はなく、建主のOさんと相談して、外部とは違って白い抽象的な空間としています。床材は高知県産の杉板を使用し、各部屋の通風に配慮しています。
 南に居間と和室(床の間付)を続きの間でとり、北に台所と食堂を配置という高知ではスタンダードな間取り。家族、親戚、友人等が大勢集まり、お酒を酌み交わす「おきゃく」ができるように。というのは高知らしい間取りだなあ、と思います。

ASJ土佐南国スタジオ

[株式会社公文建設]

スタジオマネージャー:公文伸也

 O様の家づくりは、当社のオープニングイベントにお越しくださったのが始まりです。
土地は既にお持ちだったのですが、建設地が「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されているため外観に関して様々な建築的制約があり、O様も悩まれていました。
 そんな時にイベント会場で最初に立ち寄った建築家のブースが鈴江先生でした。話を進めていくと、鈴江先生が保存の際のメンバーとして活動していたことがわかり、意気投合。一気に話がまとまりプランニングがスタートしました。
 計画段階では土地の宅地転用からお手伝いさせていただきました。建物のデザインや仕様などは当方と鈴江先生にお任せということでしたので少し苦労もしましたが、O様の建物イメージに合ったプラン提案ができたので、最終プランでOKをいただいた時は、嬉しくてなんとも言えない気持ちになったのを覚えております。
 工事期間中はO様のご両親も含めて色々な差入れを頂いたり、担当の管理者や職人さんに励ましの言葉も頂きました。満足のいく建物が完成できたのもO様のお蔭ですし、鈴江先生のご協力はいうまでもありません。
 今後はアフターメンテナンス等を行いながら私自身もより成長させていただき、末永くO様ご家族と親交を深めていければ幸いです。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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