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ASJ Works Close-up

夫婦それぞれの願いを叶えたこだわり溢れる風雅な家

山形県酒田市

月と暮らす庵

設計 碇谷規幸/I・N設計スタジオ
施工 ASJ庄内スタジオ[株式会社加藤組]

中央が吹き抜けのリビング、向かって右が茶室、2階のバルコニーの奥が浴室だ。①

「月を眺めながら風呂に入りたい」
 そんなWさんのひと言からスタートした家づくり。そして、2階の南側の、家のなかで最も眺めのよい位置にバスルームは設けられた。浴槽だけでなく、壁や天井にまで檜をふんだんに使用。日中は陽光が差し込み、夜には星空が見える天窓を備え、湯上がりのクールダウンに好都合な、広々としたバルコニーを併設している。湯に身体を浸せば、目の前に月。窓を開け放てば、風が心地よく頬を撫で、露天風呂気分を味わえる。
「満月の日には、特に月見風呂が楽しみなので、早めに帰ってくるんです(笑)。朝風呂も最高ですよ」
 設計を担当した碇谷規幸さんと建主であるWさんは、実は高校の同級生。かねてより、家を建てるときには碇谷さんにお願いしたいと思っていたそうだ。そして結婚4年目を迎え、そろそろというタイミングで、入会料無料キャンペーン中だったASJを介しての依頼となった。そして、旧知の仲であるふたりの、ぴったりと息の合ったやりとりのなかで、理想の家が完成したのである。
 しかし、この理想の家、ご主人のWさんの願いだけを叶えたわけではない。大きな見どころが、もうひとつあるのだ。それは、奥様のための茶室。茶道を嗜む奥様が、お友だちを招いて茶会ができるように、欠月窓のある8畳の茶室が設けられているのだ。

天井や梁に無垢材を使用した、清々しいリビング。窓の向こうには出羽三山の雄大な姿が見える。②

「桂離宮の茶室をイメージして、月文字や松葉の引き手を扱うお店を調べたり、利休中桐の唐紙を取り寄せたり。『松琴亭』の市松模様の襖も、似た配色で建具屋さんに作ってもらいました。目指す空間をつくるために、必要なものをあちこちで探しました。この欠月窓から月を眺めながら、月見の茶会ができたら素敵ですよね」と奥様。
 襖の月文字の引き手、煤竹を用いた竿縁天井、石垣張りの障子、銅製流しを造作した水屋など、奥様のこだわりが凝縮された空間。そこへ至るまでのアプローチも、また美しい。4畳半の茶室だと茶庭からにじり口を通って入室するが、8畳の場合はにじり口がない。庭の飛び石を渡り、蹲つくばい踞で手を清め、縁側から入室する。その一連の流れが、整っているのである。
 そして、吹き抜けのリビングの開放感。大きな窓の向こうには田園風景、さらには月山をはじめとする、出羽三山の雄大な姿が見える。
「窓から差し込む朝日を浴びて、朝食をいただくと、とても清々しいんですよ」とWさんは笑顔で話す。
 すると奥様は、「私は、ダイニングの洗面台が便利なので、気に入っています」。寝室は1階で、バスルームは2階にあるため、顔を洗ったり、歯を磨いたりできるようにコンパクトな洗面台を1階に設置したのだ。食事前にサッと手を洗うこともできて、なかなかお役立ちなのだという。

キッチンからダイニング、リビングまでがひとつながりとなった大空間。ダイニング脇の洗面台が便利だと奥様に好評。③
奥様のこだわりが詰まった8畳の茶室。床の間の右手の欠月窓から、月を眺めながら茶会をするのが奥様の夢だ。④

さらには、冬の寒さが厳しい地方の家ゆえ、住宅性能の高さも徹底している。壁の断熱には、熱だけでなく音も遮断し、防火性能、調湿性能にも優れたセルロースファイバーを使用。外壁には防水&透湿機能を備えたそとん壁、内壁には高い調湿効果を誇り、〝健康塗り壁〟とも呼ばれるダイアトーマスを採用し、建物全体の湿度調整を図った。また、リビングの窓にはロー・イーガラス、浴室とリビング、縁側には木製サッシを使用することで、さらに断熱効果を高めている。
「おかげで、夏は数日しか冷房を使わずに済みましたし、冬は温かく過ごせました。以前住んでいた借家では、灯油ヒーターを何台も使っていたのに。結露も、まったくないんですよ」と奥様も快適性に満足されている様子だ。
 月を眺めながら入浴を、月を愛でながら茶会を。ご夫婦ふたりの、それぞれの希望を実現した家。暗闇を優しく照らし、地上の生きとし生けるものを静かに見守る月のように、おふたりの暮らしを守り続けていくことだろう。

(取材/吉田桂)
桐紋の唐紙を使用した襖と、“月”の文字を象った引き手。細部にまでこだわりが見える。⑤
「まだまだ修行中です」と奥様は謙遜するが、所作の美しさ、道具選びのセンスは感嘆もの。普段は気軽にキッチンでお茶をたてることもあるそう。⑥
茶室への裏動線にある水屋は、コーナーを生かして三角形に。通りやすく、収納も申し分ない。⑦
完成間近の様子(碇谷氏提供)
玄関を入って正面には、採光と通風を考えて坪庭を設けた。茶室を備えた家らしい、和風の庭だ。⑧
茶室の手前には、客間としても使える4畳半の和室がある。藤色の唐紙が空間に彩りを添えている。⑨
茶室の手前には、客間としても使える4畳半の和室がある。藤色の唐紙が空間に彩りを添えている。⑨

■月と暮らす庵いえ

所在地

山形県酒田市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦

設計

碇谷規幸/I・N設計スタジオ

施工

ASJ庄内スタジオ[株式会社加藤組]
 担当 小林力
設備 有限会社和島水道
電気 株式会社配電工業

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階  
軒高 5,840mm 最高の高さ 6,492mm
敷地面積 352.54m2
建築面積 159.19m2(建蔽率45.16% 許容 60%)
延床面積 194.72m2(容積率48.21% 許容200%)
 1階 153.41m2
 2階  41.31m2

主な外部仕上げ

屋根 カラーGL鋼板t0.35立ハゼ葺き
外壁 そとん壁仕上げ
   カラーGL鋼板t0.35立ハゼ葺き
開口部 アルミ樹脂複合サッシ、一部木製サッシ
外構 コンクリート舗装

主な内部仕上げ

 床 300角タイル張、ヒノキ無垢フローリング
 壁 ダイアトーマス塗
 天井 針葉樹合板張
リビング、ダイニングキッチン
 床 チーク無垢フローリング
 壁 ダイアトーマス塗
 天井 針葉樹合板張
寝室
 床 チーク無垢フローリング
 壁 ダイアトーマス塗
 天井 土佐和紙張
和室、茶室
 床 畳敷き
 壁 ダイアトーマス塗
 天井 杉竿縁天井一部網代天井

工程

設計期間 2012年12月~2013年9月
工事期間 2013年10月~2014年7月

撮影

長谷川潤(③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩)
小笠原岳(表紙 ①②)

2階平面
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1階平面 縮尺1/300
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碇谷(いかりや)規幸

(山形県酒田市)

1968年山形県生まれ/1990年新潟大学工学部建築学科卒業後、株式会社石本建築事務所に勤務/2002年株式会社伊藤建築設計事務所入社/2008年I・N設計スタジオ設立

 敷地は閑静な住宅街のはずれにある100坪の広い土地。東側に開けた敷地からは夜になると月が綺麗に見えます。「月を眺めながら風呂に入りたいんだ…」。クライアントでもあり、親友でもある彼のこの一言から設計作業は始まりました。
 月を眺めるための浴室は2階東側のバルコニーに面して配置。バルコニーには目隠しルーバーを設置し、外部からの視線にも配慮しました。月の高度を考慮して浴室の窓、トップライトの設置位置、バルコニーの目隠しルーバーの高さを設定してあります。浴室はヒノキ張で浴槽もヒノキの浴槽を採用。日ごろ仕事で疲れた心と身体をリフレッシュしてくれる至福の時間を満喫できます。
 奥様はお茶を嗜まれます。日々の雑然とした暮らしから乖離した休日のある日、和室は御点前を披露する茶室に変身を遂げます。1階の東側には景観を活かすためにLDKと茶室を配置。茶室は広間席(8畳)を確保し、東南側外部には茶庭も広がっています。茶庭にはつくばい、生け垣、飛び石、黒玉砂利、植栽等々茶室のしつらえを創るアイテムを散りばめ、床の間、書院、欠月窓、障子、襖、水屋流し、空調吹出口、コンセント等のディテールにも奥様のこだわりを実現させました。
 LDKからは茶庭、玄関ホール・キッチンからは寂びの庭、寝室・ワークスペースからは侘びの庭と、室内の各所から三つの庭を望むことができます。これらの庭は緩やかに内部と外部をつなぎ、ゆっくりと時間が流れる空間を演出することでしょう。
 外壁にはそとん壁を採用し、充填してあるセルローズファイバー断熱、ダイアトーマス塗の内壁との融合により「呼吸する壁」を実現し、住宅内全体の湿度調整を行う構造としています。

ASJ庄内スタジオ

[株式会社加藤組]

クライアントパートナー:小林力

 今回ご縁があり担当させていただくにあたり、内部に茶室・檜仕様の浴室を設けるご要望・設計でしたので、施工の立場でもいろいろと建主のW様と打合せを重ねました。大事な資料もお借りして勉強させていただき、試行錯誤しつつも心から楽しみながら施工させていただきました。
 まさに「自由度の高い建築家との家づくり」を三者一体となって進めていくことを、改めて実感した次第で『月と暮らす庵』が完成しました。
 また、工事中はお隣でもあるご主人のご実家より、工事休憩の際に毎日お立ち寄りいただき、心温まる差し入れをいただきました。工事関係者ともども大変お世話になりました。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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