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ASJ Works Close-up

気負わず、押し付けず家族と共に成長するおもてなしの家

長崎県西彼杵郡

オウチ・カフェ

設計 中村文典/n+ archistudio
施工 ASJ長崎スタジオ[武藤建設株式会社]

土間の玄関には薪ストーブが、その正面には炎鑑賞用ともいえるソファが置かれている。年間で最も寒いこの季節、大活躍していることだろう。

陽光きらめく大村湾を遠望する「オウチ・カフェ」。坂の町長崎らしい急な坂道を曲がって見えてくるN邸は、新築特有の〝借り物〟感のない、もう長くこの地に在るように建っている。「遊びに来たみんながくつろげると喜んでくれます。新築だからと気負ったり、傷を付けないかとハラハラさせたりせず、のんびり過ごしてくれている姿をみると、あぁいい家ができたなってうれしくなるんです」。出迎えたRさんがほほえむ。
家具や雑貨が好きで、出会ったころから「いいなと思うものが似ていた」というN夫妻。デートで長崎市のグラバー園に建つ洋館を巡っては「こういう家に住みたいね」と語りあい、「置く場所もないのに(笑)」好きな家具を一つひとつ集めてきた。息子のEくんを妊娠していた2013年1月、職場近くに掲示されていたASJのポスターをたまたま見かけ、建築家展へ。数人の建築家ブースをまわり、中村文典さんと出会った。「中村さんが設計された家のパネルを見たとき、自分たちの理想に近い、いや超えてる! とハッとしました」と目を輝かせる。

夫妻ともに古いものが好き。調べたり雑貨店巡りをするのが好きなRさんと直感的な出合いを大切にする妻Yさんが「いつか家族で使いたい」と集めた家具たちも、この家の主役だ。

正面から見ると平屋にみえるN邸。「毎日家に帰るのが楽しみで。カーブを曲がって家が見えてくるとワクワクします」とRさん。
キッチンと洗面所間の廊下よりリビングを望む。

当時、二人が描いていた理想の家は「三角屋根の平屋づくり、窓が大きく長い軒下があって、中庭を囲むように建つ緑豊かな家」。それまでにも住宅メーカー4社へ相談したが、敷地内の高低差がネックとなり、盛り土をして平地にするか低い方の土地に総2階を建てるか、の二択を迫られていた。そこで中村さんは玄関やリビングは2階に、書斎や寝室を1階に置き、正面からは平屋に見え海側に開ける間取りを提案。数日後には土地確認のため訪長し、プランニングがスタートした。
シンプルで合理的、どこか懐かしい温かな空間。N邸は上質なこだわりで満ちている。玄関の土間に鎮座する薪ストーブは、訪れる男性誰もが絶賛するといい、「揺れる炎を無心で見つめる冬の夜は格別です。思いのほか熱くて、頬がちりちりするんですよ」と笑う。対して多くの女性が感嘆の声をあげる回廊型のキッチンはリビングからキッチン、玄関へと回遊することができ、そのまわりを子供たちは元気に走り、大人たちはカフェに居るような和やかな時を過ごす。
また、リビングの床は、大ファンのボストン・セルティックス(NBA)のアリーナと同じヘリンボーン柄の張り。「棟梁は、『大変かとよ!』と笑いながら惜しみなく手間と技をかけてくれた。いつまでも眺めていたい大満足の床です」と感謝が尽きない。さらに、木で枠取りされた広く大きな窓も圧巻だ。「木を使えば気密性や耐久性が低くなること、ただし経年によって人工素材のサッシにはない風合いや味わいが出ること。中村さんから長所と短所をしっかり教えてもらったので、覚悟をもって自分たちで決めることができた。何度も打ち合わせを重ねて細部までこだわって選んでいく作業は至福のときでした」。
竣工引き渡しは14年11月。夫妻は数日で家具を運び入れ、オープンハウス(完成見学会)に協力した。自ら淹れたコーヒーで多くの見学者をもてなし、さまざまな質問に応えたRさん。「自分たちもわからないことだらけで家づくりを始めたから、人ごとじゃなくて。住みたい家を形にしてくれた中村さんへの恩返しと、カフェのマスターになりたい夢もかないました」と笑う。
「家は『建ったら完成』ではなく、人が住んで、だんだんその家族の家になっていくんです」。そう話す中村さんに深くうなずく夫妻の傍らで、Eくんもにっこり。成長したEくんもまた、たくさんの友達や恋人を連れこの家で楽しく集うに違いない。そんなN邸の未来がはっきり見えた気がした。

(取材/坂口紀美子)

穏やかな時間が流れるリビング。夫妻の漠然としたイメージを、建築家の中村さんは分かりやすい言葉や例えに置き換えて提案してくれたそう。「打ち合わせ中、何度『それです!』と言ったことか。中村さんはきっと(ドラえもんのひみつ道具の)翻訳コンニャクを持っておられます(笑)」

ニシン(herring)の骨(bone)を並べた形に似たヘリンボーン柄に貼られたリビング。Rさん自慢の床だ。
2階ロフト。シンプルでどこか懐かしいミッドセンチュリーを中心にした家具や雑貨で統一されている。
キッチンをぐるりと囲む壁は黒板になっている。夕食のメニューや備忘メモ、
Eくんの落書き遊びなど、用途はさまざま。
陽光が注ぐ浴室。夫妻の好きなものが詰まったこの家でEくんは成長していく。
洗面脱衣室。取材時には、懐かしい木製の身長計も設置されていた。
夫妻の旧居で行った最初のヒアリングで浮かんだ「オウチ・カフェ」のコンセプトが最後まで変わることはなかった。(撮影 坂口紀美子)

■オウチ・カフェ

所在地

長崎県西彼杵郡

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供1人

設計

中村文典/n+ archistudio

施工

ASJ長崎スタジオ[武藤建設株式会社]
 担当 川上太二

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階  
軒高 5,815mm  最高の高さ 7,605mm
敷地面積 293.61m2
建築面積  88.19m2(建蔽率30.04% 許容50%)
延床面積 139.43m2(容積率47.48% 許容80%)
 1階    51.24m2
 2階    88.19m2

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板
外壁 サイディング下地ソフトリシン吹付け
開口部 アルミサッシ、木製製作サッシ
外構 コンクリート洗い出し、芝張り、枕木敷き

主な内部仕上げ

リビングダイニング
 床 ウォルナット無垢材ヘリンボーン張り
 壁・天井 漆喰塗り
キッチン
 床 ウォルナット無垢材スクエアブロック張り
 壁 フレキシブルボード張クリア塗装
 天井 漆喰塗り
浴室
 床 モルタル金ゴテ押え撥水剤塗布
 壁・天井 FRP防水トップコート塗り
ベッドルーム
 床 レッドパイン キヌカ塗り
 壁・天井 クロス張り
工事費 約2700万

工程

設計期間 2014年1月~2014年 5月
工事期間 2014年7月~2014年11月

撮影

石井紀久(※以外)

断面図A 縮尺1/200
クリックで拡大
2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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中村文典

[福岡市南区]

1972年山口県生まれ/1993年京都科学技術専門学校建築デザイン学科卒業後、ゼネコン設計部に勤務/1996年株式会社AD建築設計事務所入社/2001年キュービックス一級建築士事務所入所/2010年n+ archistudio設立

 計画地はご主人の実家の隣であり、北東に大村湾、南に長崎の山並みを望む小高い山の上にあります。また、敷地の奥半分は3mほど下がった変形地でしたが、素直にプランへと落とし込むことで、この場所でしかできない計画となりました。
 初めてご自宅にお邪魔した時に、アンティークな家具や雑貨、コーヒー豆の香り、ご夫婦の気さくな人柄が重なり、馴染のカフェに来たような感覚になったのを覚えています。実際にご主人の挽いた豆で飲むコーヒーは、蒸らし時間や温度に気を使われ、とても美味しいものでした。後の話になりますが、オープンハウスの時にはご主人がマスターとなり奥様と二人で来場者へのコーヒーサービスや気配りをいただいています。
 ヒアリングを進める中で、ライフスタイルやコダワリが分かると、カフェのイメージがより強くなっていきました。この二人が営むとしたら、やはり居心地の良い、家にいるかのようなカフェだな、と。今思えば、住宅設計でありながら店舗設計に近いものがありました。
 「オウチ・カフェ」には、色々な場所でその場所の使い方を考える楽しみがあります。土間リビング、大型窓の腰掛け、窓際のカウンター、ロフトなど、適度なつながりとゆとりを持たせた結果、このような楽しみができたのではないかと思います。
 また、黒板塗装で仕上げられたキッチンは回廊型プランの中心となり、家族の状況に目を配ることができます。厨房と客席のような関係ができたことで、一般的なLDKとは少し異なるコミュニケーションスペースになりました。
 これからもオウチ・カフェには人が集まり、楽しげな会話が聞こえる場所であって欲しいと思います。

ASJ長崎スタジオ

[武藤建設株式会社]

スタジオマネージャー:武藤主税
 ご主人はコーヒーを淹れるのが好きであり、レトロな雰囲気のカフェのような家をコンセプトに今回の計画はスタートしました。
 外観は、段差がある土地を有効利用することにより、正面からは平屋建てのように見えますが、横から見ると2階建てであることが分かるのが大きな特徴です。開口部の大きい木製サッシもアクセントになっています。薪ストーブの煙突や、庭の木々も相まってかわいらしいナチュラルな雰囲気がよく出ています。敷地の形状からすると、通常のハウスメーカーでは実現が難しい、まさに建築家との家づくりならではの形になっています。
 中に入ると、玄関を広くとっており、ソファーにくつろぎながら薪ストーブの炎を眺めてくつろぐことができます。リビングは、建主のN様が当初よりこだわっておられた、ヘリンボーン床になっています。カウンターキッチンの壁は黒板になっており、文字や絵を描くことができ、味わい深さを与えています。
 何度も打ち合わせを重ね、予算の調整を行いながら、できるだけN様のご要望をかなえることができるよう、中村先生には上手くプランをまとめていただきました。N様ご夫婦の感性もすばらしく、配置された家具や小物類や照明もセンスが良く、新築でありながら、まるで以前からあったかのようにまわりと調和し、空間にあたたかい深みが出ています。
 N様にも喜んでいただき、長崎スタジオスタッフ一同も、今回の建築に携わることができ、感謝の気持ちで一杯です。これからも、アフターサービスを通して、末永くお付き合いさせていただきたいと思っています。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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