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ASJ Works Close-up

ハウスではなくホームをつくる

石川県白山市

川の流れと木立ちを眺める家

設計 石村聖一郎/聖建築設計事務所
施工 ASJ金沢スタジオ[株式会社明翫組]

ペ レット式のストーブは薪式と異なり、燃料の置き場に困ることがない。吹き抜けの壁面は武家屋敷のよう。

家を気に入るのではなく気に入る家を建てる

 水墨画のような山肌は、春の訪れとともに輝く新緑に彩られる。夏が過ぎると紅葉が始まり、冬には白銀の世界が広がる。「空を赤く染める赤とんぼの群れに驚いたり、美しい鳴き声の主を探して双眼鏡をのぞいたり…。山の景色には飽きることがないですね」
 Yさんが、川向こうの木立を眺めながら満足そうに話される。静岡県で生まれ、埼玉県の戸建てで暮らしていたYさん夫妻。仕事の都合で石川県に移ったのは、いまから10年ほど前のことだった。転勤後8年という社宅の契約期限が切れるのを前に、定住を決めたという。「歴史あるものと近代的なものが絶妙のバランスで存在する金沢の街が好きになり、退職後もここで暮らそうということになりました」
 奥様が友人から贈られたという切り絵の前で、移住の理由を説明してくださった。「濱ちゃん」と奥様が呼ぶその切り絵作家も、かつては加賀蒔絵や加賀友禅など金沢の伝統工芸の職人さんだ。
 金沢を愛しはじめたYさん夫妻が、家づくりのパートナーに選んだのが、ASJ金沢スタジオだった。「埼玉の家はハウスメーカーに建ててもらっています。その経験から、心底、気に入る家を建てるには、建築家の方に、住まいに対する僕たちのイメージを、実現可能な範囲まで膨らませていただくしかないと。それで、イベントに参加しました」

四季折々の表情を見せる自然は、自宅に居ながらにして山小屋のような開放感を与えてくれる。②

宅地に建てるのではなく建てる宅地をつくる

 依頼を受けた金沢スタジオは、まず土地探しから始めた。「郊外」「静か」「山の近く」「愛犬が走り回れる場所の確保」――。こうした要望にかなうと思われたのが3ヵ所。そのなかからYさんが選んだのは、川をはさんで山が広がる現在地だった。Yさん夫妻の希望に合うだけでなく、眺めも最高。ただし、そこは宅地として整備されたものではなかった。金沢スタジオは、自治体の「川から離せば宅地化はOK」という許可の下に、造成に着手。その後、地盤改良などを経て、頑強な基礎をつくりあげた。
 次は設計の段階へ。Yさん夫妻が依頼したのは石村聖一郎さんで、その理由は過去の作品で見初めたから。「石村さんの作品のなかでも『回廊の家』に惚れました。斬新な構造もさることながら、家の裏側の外観までも丁寧に設計されていることに、建築家として信頼できると確信したのです」 さらに、作品集に書かれていた石村さんの言葉が、Yさんの共感を呼んだという。それは「ハウスではなくホームをつくりたい」というもの。「建物としての家ではなく、住む人の暮らしを含めた家をつくりたい。そんな思いを表した言葉です」 取材に同席された石村さんが、言葉の意味を静かに説明する。 こうしたスタジオや建築家との出会いを経て、いよいよ、Yさん夫妻のホームづくりが始まった。

2台のクルマをタテに駐車することで敷地が有効に利用でき、眺めのよい間取りが実現した。①
加賀群青の深い青への憧れからつくられた和室。Yさんの精神統一の場としてだけでなく、来客の宿泊にも使われる。③
ご夫妻のコレクションの器のほか、記念日のワインや日本酒のボトルが並ぶ一画はまるでギャラリーのよう。④
特注の囲炉裏テーブルには、日本海のトレトレの海産物が並び、お友達の笑みがこぼれることだろう。⑤

結果に満足するのではなく満足できる結果をめざす

 実は、Yさんの家は11番目の設計図をもとにつくられている。ご夫妻ともメーカーのエンジニアという職業を考えると、プラン11などは、まだ序の口なのかもしれない。「それだけ大きな期待を、スタジオや、建築家である私にかけていただいたのだと思います。金沢スタジオは、それに応えるべく、Yさんが言葉に出しておっしゃらないことも読み取って、私に伝えてくれました」 豊かな発想力を持ち、数多くの受賞歴を誇る石村さんだが、5案目までは、どこか普通の設計だったという。転機となったのは、車庫の位置をヨコからタテに変え、縦列駐車を許してもらったこと。それによってアイデアが湧き出たという。
 例えば、ワイン好きのYさん夫妻のために、柱と柱のあいだの壁をガラス棚にと提案したり、玄関側の壁を裏側からも透けて見えるケースにして、玄関の表情を豊かにしたり。吹き上げの2階の壁は、金沢の城下町の風情を感じさせる格子戸にデザインしたりと、オリジナリティが炸裂している。「テレビ番組などで斬新な新築やリフォームの事例を見て、私たちの満足のレベルが高まっていたのかもしれません。石村さんも、スタジオの方も、よくしてくださったと感謝しています」
 Yさんと同じように、独自性やかっこよさを求めてきた奥様が、そういってほほ笑む。
 

既製品ではなく自分たちでつくる

 登山が趣味で、お酒や料理が好きだというYさんが望んだのが、囲炉裏のある部屋。ただし、膝に痛みを持つ友人たちのために、掘りごたつ風にというオーダー。これに応えて、石村さんは眺めのよい場所に一室を設け、金沢スタジオは能登珠洲特産の珪藻土を特注でくり貫いて「囲炉裏テーブル」をつくった。
 ワインセラーを持つという夢は、ワイン専門の冷蔵設備ではなく、食品用の設備で価格を抑えた。このように、Yさん夫妻が持ち続けてきた憧れは、新たな住まいで、次々と身近なものになっていった。
 和室もその一例。加賀百万石の前田家の文化に興味を持つYさんは、独特の青色を壁面に使っている。「金沢の兼六園に隣接する成巽閣( せいそんかく)には『群青の間』という和室があるのですが、そこを彩るのが『加賀群青』と呼ばれる鮮やかな青。その色を和室に使っていただきました。この部屋にいると、不思議と集中力が高まるんですよ」 さまざまな趣向が凝らされたY氏邸は、エンジニアから農業へと、次のステップへ進むYさんと奥様の第2ステージを、より充実したものに高めるにちがいない。
 最後に、中高年者が家を建てるときのポイントを奥様にうかがった。「足し算よりも引き算の発想が必要ではないかと。本当にほしい、また、必要なものだけを残すということでしょうか」
(取材/香川泰子)

念願のワインセラーではコレクションのボトルたちが飲みごろまでゆっくりと熟成されている。⑥
家の前を小川がゆったりと流れる。造成や地盤改良などで格好のロケーションを手に入れることができた。⑦

■川の流れと木立ちを眺める家

所在地

石川県白山市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦

設計

石村聖一郎/聖建築設計事務所

施工

ASJ金沢スタジオ[株式会社明翫組] 担当 高田亜貴
設備 株式会社鳥山設備 担当 吉田賢一
電気 有限会社谷本電機 担当 谷本真人

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階  
軒高 6,065mmm  最高の高さ 8,162mm
敷地面積 540.63㎡
建築面積 118.68㎡(建蔽率21.95% 許容60%)
延床面積 194.01㎡(容積率29.45% 許容200%)
 1階 110.68㎡
 2階 78.93㎡

主な外部仕上げ

屋根 カラーガルバリウム鋼板
外壁 カラーガルバリウム鋼板、サイディング
開口部 アルミサッシ
外構 アスファルト舗装、白玉砂利敷き

主な内部仕上げ

LDK
 床 無垢フローリング
 壁・天井 クロス貼り
バーベキュールーム
 床 タタミ
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2013年5月~2014年7月
工事期間 2014年8月~2015年2月

撮影

水野真澄(表紙 ②③④⑥⑦) 

新谷篤一(①⑤)

 
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断面図b 縮尺1/200
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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断面図a 縮尺1/200
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石村聖一郎

[石川県金沢市]

1964年富山県生まれ/1985年石川工
業高等専門学校建築学科卒業/1996
年聖建築設計事務所設立

 愛犬とワイン、クラッシック音楽をこよなく愛する建主夫婦は、転勤で石川県に赴き、この地が気に入り、定住を決意されました。自然を感じながら、落ち着いた生活をしたいと望まれ、山あいの川のほとりの敷地での計画となりました。
 川の流れと木立ちに向けて大きく開いた窓を持つ、吹き抜けのリビング。それを中心に、ワインの貯蔵やディスプレイ、友人が集い囲炉裏を囲んで食事のできる和室が配置されています。
 大きな一枚屋根の外観を室内でも生かし、1階から吹き抜けを通して2階、ロフトへと一体感のある空間としました。外部とも一体となった、タテ、ヨコの広がりを感じる空間となっています。

ASJ金沢スタジオ

[株式会社明翫組]

クライアントパートナー:明翫圭祐
 Y様は2012年の「第18回未来をのぞく住宅展」に来場され、入会されました。他県から金沢に移住して7年。入会当初から、「自然があふれる場所で、終の住処を建てたい」という希望をお持ちでした。
 まず、土地探しからスタジオでサポートさせていただき、Y様の気に入る土地が見つかりました。そこは、河川に面した傾斜の地で、造成・擁壁工事、地盤改良や建築基礎の増強工事が必要ではありましたが、Y様の思い描く雰囲気が得られる最適な土地でした。そこから、県内の建築家 石村聖一郎氏が現地を確認し、プランニング開始となりました。ご夫婦共にお仕事が忙しく、限られた時間の中で、一歩ずつプランは色付いていきました。「川の流れと木立ちを眺める家」は、その名のとおり、リビングに入ったときにまず目に飛び込んでくる風景が何よりの特徴ではないかと思います。春夏秋冬、季節の移り変わりを楽しみながら、日々を過ごせるというのはとても贅沢なことのように思われます。
 LDKの中には、ワイングラスを眺めることのできるガラス棚、室内と屋外とを結ぶバーベキュールームなど、Y様の趣味、生活を楽しむための工夫がたくさん盛り込まれています。また、リビングには2階へ通じる吹き抜けが配置され、夏は川からの風が通り、冬は薪ストーブのあたたかい空気が伝わり、1階と2階の空間を繋げてくれます。その他にも、紺色を基調とした和室や、ショップ顔負けのワインセラーなど。Y様の趣味であるワインと音楽、そして愛犬との生活を楽しめる空間が出来上がりました。
 今回の取材も快諾・ご対応いただきましたこと、改めて心より御礼申し上げます。また、これからも川の流れと木立ちを眺めながら、ゆっくり時間を過ごしていただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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