施主様のお話

HOME > 建築家との家づくり > ASJ Works Close-up > わが家はママのオアシス

SHARE

ASJ Works Close-up

わが家はママのオアシス

香川県丸亀市

N-65(丸亀の家)

設計 向阪一郎/プラスアトリエ一級建築士事務所
施工 ASJ宇多津スタジオ[センコー産業株式会社]

外扉を開けると目に飛び込んでくるのが中庭。シンボルツリーのシマトネリコが子どもたちの成長を見守る。

「平屋に」という希望に応えて2階建てには見えない片流れの屋根構造。駐車スペースはクルマが4台並んでとめられる広さ。将来、息子さんたちが里帰りしたときにも困らない。①

家づくりはママ目線で

 シンボルツリーが迎えてくれる中庭、片流れの屋根…。建主様の願いがカタチになった家である。
「子ども目線ではなく、私の目線で設計してくださいとお願いしました」
 建主のYさん夫妻は共働きで、やんちゃ盛りの息子さん二人との4人暮らし。今回の取材は、奥様の潔い言葉から始まり、終始、驚かされることになった。
「帰宅が遅い僕は、自宅で過ごす時間が妻より短くなります。そこで、妻にとって暮らしやすく、子どもを育てやすく、くつろげる家をつくればいいよと、妻の目線での家づくりを勧めました」
 そんなエールを受け、奥様の希望どおりに設計されたキッチンは、ダイニングの壁の裏にあり、けっしてオープンとはいえない間取り。
「仕事を終え、急いで保育園へ子どもを迎えに行き、自宅に帰ったあとは、ひと息つきたいですよね。そんなとき、雑然としたキッチンは見たくないなと思ったのです」
 おうちカフェでわずかな休憩をとったあと、ママは家事と子育てのための戦闘モードに入る。
 

つくりは閉鎖的に

Yさん夫妻が購入した土地は、お互いの職場に近い新興住宅地で、周囲には家が建ち並んでいる。そのためもあり、Yさん邸は外側に窓がなく、内側に中庭を設けた、いわゆるコートハウス。
「閉鎖的で、プライバシーが守られて、でも、家のなかは明るくて開放的にとお願いしました。そして、どこに座っても緑が見える間取りがいいなと。それまでに私なりにあたためてきたわが家のイメージを、建築家の向阪さんに伝えました」
「閉鎖的」という言葉に、営業職で外回りが多い奥様の、理想郷が表れているような気がした。
 そんな思いをくみ取ったのだろう、向阪さんは中庭を4ヵ所に配置。天井の高いリビングの奥には、天井の低いダイニングを配置し、玄関横には和室をつくるなど、開放的でありながら、どこか隠し部屋的である。
「私は庭の手入れが充分にできないと向阪さんに伝えたところ、新緑が美しい樹木を選んでくださいました」
 シンボルツリーのシマトネリコやハイノキ、モミジなどの木々はそれぞれ樹高が工夫されていて、ダイニングやリビングの椅子に腰かけたときにちょうど目に触れる位置にある。
「4つの庭と、くつろぐ家族の姿が見渡せるダイニングの席が、僕のお気に入りの場所ですね」
 Yさんが満足そうに話される。

奥様が家事に取りかかる前に小休止されるダイニング(おうちカフェ)。床はお好みのグレーのタイルで。壁の裏側がキッチンになっている。②

来客に備えて和室も用意。窓とカエデのあしらいが絶妙。③
屋根に設けた開口部の下に中庭を設け、採光と通風を確保。④

外観にもオリジナリティを

Yさん夫妻がASJのイベントに初めて参加されたのは、竣工の4年前の2012年。翌13年に会員になられ、14年に土地を購入、同年に向阪さんとの設計が始まった。
 ご夫妻ともに多忙で、家づくりに専念しにくい環境だったため、実現には時間がかかったが、そのぶん、建築家への期待が膨らんだという。
「設計を依頼した当初は、向阪さんの感性を存分に活かしてもらおうと平屋にこだわりました。ただ、クルマが4台並べて置ける駐車場を設けると、敷地に余裕がなくなり断念。2階建てに変更し、向阪さんの設計プランを待ちました」
 Yさんが当時のことを思い出してくださった。こうして迎えたプレゼンテーションの日。向阪さんが持参した模型は、Yさん夫妻の希望をすべてかなえていたものの、オリジナリティが乏しかったという。コートハウスにありがちな、石垣の上に建つ城のように、外壁から2階部分が見える構造だった。
 そこでスタジオが、向阪さんとYさん夫妻の気持ちを察してセカンドプランの日を設けた。再提案された模型は、2階建てに見えない片流れの屋根(現在の構造)。
「ご夫妻も私もこれを見た瞬間、素晴らしいと思わず声をあげました」
 ASJ宇多津スタジオの鳥居裕子さんは、ご夫妻の思いに120%応えた向阪さんの実力を改めて知ったという。
 

ママの笑顔があふれる家を

 収納スペースがたっぷりあっても、子どもたちがきちんと片づけてくれなければ部屋は物であふれかえる。観葉植物を飾っても、子どもたちが鉢を倒してしまえば用事が増えてしまう…。
「その点、わが家の男子は、とても協力的なんですよ」
 家事を終え、夜、グラスを片手にひと息つくのは、リビングのソファー。そんなママのもとに、息子さんたちが「これ、おつまみにどうぞ」「今日はお疲れのようだから、2杯までならいいですよ」と、ねぎらいの言葉をかけてくれるとか。そんな子どもたちの姿をYさんがダイニングからやさしく見守っている。   
 それにしても、「掃除が苦手」「料理も得意ではない」と言いつつも、キッチンやバスルームは美しく磨き上げられている。
「向阪さんからは『人目につかない場所はコストを抑えますか?』とご提案いただいたのですが、掃除をしたくなるような、料理を楽しみたくなるような、そんな設備をとお願いしたところ、理想的なデザインのものを見つけてきてくださいました」
 明るく風通しのよい家、収納が多い家、家事がはかどる家…。家に求める条件は人それぞれ。そんななか、忙しいママたちがくつろぎ、楽しめる家が大切なことをYさん夫妻が教えてくださった。これからも、4つの中庭から差し込む太陽の光は、ママの笑顔をより一層輝かせることだろう。
(取材/香川泰子)

天井の高いリビングは最も開放的な空間。「片流れらしくない天井に」との奥様の要望で傾斜が目立たない。右手の部屋の奥はYさん希望のワークスペースに。⑤

子供部屋は、修学までは家族4人の寝室として利用。⑥
ダイニングから見えないようにと隔離されたキッチン。「お料理を楽しみたくなるように」とのニーズに応え、システムキッチンはイタリア・ユーロモビル社のもの。⑦
「ホテルのようなしつらいに」との願いに応えた洗面室とお風呂場は床がフラット。「窓から月が眺められるときもありますよ」とはYさん。⑧

■N-65(丸亀の家)

所在地

香川県丸亀市

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦+子供2人

設計

向阪一郎/プラスアトリエ一級建築士事務所
 担当 向阪一郎 柴村敏之
構造 森本建築設計 担当 森本晁生

施工

ASJ宇多津スタジオ[センコー産業株式会社]
 担当 鳥居裕子

構造・構法・規模

木造在来工法
地上2階  
軒高 6,782mm  最高の高さ 7,585mm
敷地面積 230.47㎡
建築面積  91.40㎡(建蔽率39.66% 許容70%)
延床面積  115.11㎡(容積率49.95% 許容200%)
 1階   74.53㎡
 2階    40.58㎡

主な外部仕上げ

屋根 ガルバリウム鋼板 縦ハゼ葺き
外壁 無塗装サイディングの上アクリルシリコン塗装
開口部 アルミサッシ
外構 コンクリート直均し仕上げ

主な内部仕上げ

リビング
 床 ナラ三層フローリング オスモ塗装
 壁・天井 クロス貼り
ダイニング
 床 磁器質タイル300角
 壁・天井 クロス貼り
和室
 床 畳敷き
 壁・天井 クロス貼り
個室・主寝室
 床 ナラユニ無垢フローリング オスモ塗装
 壁・天井 クロス貼り

工程

設計期間 2014年11月〜2015年5月
工事期間 2015年 6月〜2016年1月

撮影

水野真澄(表紙 ②⑤⑦⑧)
冨田英次(①③④⑥)

2階平面
クリックで拡大
1階平面 縮尺1/200
クリックで拡大
断面図 縮尺1/200
クリックで拡大

向阪一郎

[大阪府堺市]

1973年大阪府生まれ/1997年大阪市立大学建築学科卒業後、株式会社ニュージェックに勤務/2009年プラスアトリエ一級建築士事務所設立

 香川県丸亀市の新しく形成された住宅地に建つ家族4人のための住まいです。周辺を住宅に囲まれた一般的な立地環境の中、開放的でありながらプライバシー性を高めた住まいが求められました。
 計画当初からクライアントご夫婦、特に奥様とたくさんお話ししました。お話の中で伝わってくる空間のイメージは生活感のないスッキリとした、そして凛とした空気感のある空間。もちろん使い勝手も大切。
 そして完成した住まいは、外からみると一見窓が少なく、グレイッシュで寡黙な印象となりました。しかしいったん中に入ると外からは想像もつかない別世界が広がっています。
 プランは、シンプルな片流れ屋根の空間に4つの中庭を設けました。これにより全ての居室と浴室がそれぞれ中庭に接し、単純な空間の連続性が中庭によって複雑に分節され、周辺からの視界がコントロールされた目隠しのカーテン等がいらない明るい空間が生まれました。また必要な部分に必要な収納を設けることで、生活感が滲まないよう配慮しています。そして一見寒そうに見える空間も高い断熱性能と日射コントロールにより非常に安定した室内環境を生んでいます。
 白とグレーのモノトーンを中心とした空間に、あちこちから漏れてくる光と木々の緑や青空、そしてクライアントの強い空間への「コダワリ」が映える住まいとなりました。        

ASJ宇多津スタジオ

[センコー産業株式会社]

クライアントパートナー:鳥居裕子
 建主のY様ご夫妻と初めてお会いしたのは、2012年2月の「第14回建築家展」でした。しかしその時はお時間がないとのことで、システムのご説明ができないまま帰られました。翌2013年2月の「第15回未来をのぞく住宅展」に再来場いただき、アカデミー会員にご登録いただきました。初めにご来場いただいたときも、再来場いただいた時も向阪一郎先生とお話が弾んでいたように思います。
 土地からお探しでしたが、2014年7月に気に入った土地が見つかったとご連絡をいただき、向阪先生とのプラン打ち合わせがスタートしました。
 ところが、ファーストプレゼンは奥様の納得するものではありませんでした。微妙な空気での打ち合わせののちに、再度向阪先生にプランを出していただくこととなりました。そして、いよいよ2回目のプラン提案。緊張の中、出された提案を、奥様は大変気に入られ細かな変更はあったものの、設計契約、請負契約へと進めさせていただきました。
 完成したお家は、外からはY様が希望されていた閉鎖的な家でありながら、中に入ると異なる表情の4つの中庭が配され、開放的で明るい空間が構成されています。
 Y様の素晴らしい感性を、向阪先生が組み取り完成したこの家は、Y様ご家族の雰囲気に合ったとても素敵な住宅となりました。
 Y様には今回の取材も快くお引き受けいただき、あらためて心より御礼申し上げます。これからもアフターサービス等、末永くお付き合いください。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

会員登録(無料)すると、
会報誌「A-Style Monthly」を毎月お届けいたします。

関連記事

RELATED POSTS

ASJ会員登録のメリット

BENEFITS

設計プランの第1歩

会報誌をプレゼント

イベント・セミナーへのご招待