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ASJ Works Close-up

心と体の健康を取り戻す建築

兵庫県加古川市

K・コンプレックスビル

設計 大西憲司設計工房
施工 ASJ加古川スタジオ[株式会社宍粟住建]

格子の内側には幽玄な空間が広がり、階段を上がるごとに気持ちが落ち着いてくる。

①コンクリートやガルバリウム鋼板による外壁を、木の格子がやさしく包んでいる。1階に植えられた竹が2階の窓際を飾る。

こだわりの複合ビルは建築家と

 コンクリートと和と曲線。建主のKさんの要望が見事に融和された外観は、3階建ての複合ビルだ。1階のテナントスペース、2階のカフェとリラクゼーションサロン、3階の共同住宅4戸で構成されている。
 ただし、一般の複合ビルと異なっているのは、2階から上階が、Kさんが若いころからコンセプトをあたためてきた養生施設であること。そのサロンではアロマやマッサージだけでなく、鍼などの施術も受けられる。また、カフェスペースでは、水出しコーヒーなどの喫茶メニューのほかに、養生粥なども用意されている。なにより独創的なのは、これらの施設やサービスを活かし、断食プランや産後ケアプランを整え、3階の共用住宅スペースの一部分は、宿泊プランのためにも活用されていることだ。
「薬に頼らず、人が生まれながらに持つ自然治癒力を高め、体の健康はもとより、心の健康も取り戻していただくことをめざしています」
 こう語るKさんは、実は、地元の寺院の住職。そのためカフェの名前は「坊主カフェ キセキノイマ」。
「キセキノイマとは『今、生きていることが奇跡』ということに気付いていただきたい、そうなれば、どんなことでも幸せに感じられるという思いから名付けました」
 Kさんがめざしたのは、体だけでなく心の健康をも考えた施設。その実現を託されたのは、建築家の大西憲司さんだった。

②「坊主カフェ」では、風にそよぐ竹の揺らぎに心が癒やされるというお客様も多い。取材当日は建築家とスタジオも同席し、Kさん夫妻と設計当時の話に花が咲いた。

建築家との相性を大切に

 施設が竣工したのは2016年4月のこと。KさんがASJのイベントに来場し入会されたのは、その5年も前だ。入会時は「自分の夢は建築家と共に形にしたい」という思いだけがあり、土地もまだ決まっていなかった。
 そんなある日、自宅新築のためにASJにKさんと同時入会された妹さんが、大通りに面した角地を見つけてこられた。ただし、住宅には広すぎて高額。しかし、商業施設には最適のロケーションだった。Kさんの夢は突然、実現へ向かいはじめる。
 ASJ加古川スタジオが「テナントスペースと自営店舗、賃貸住宅を備えた3階建てを」との相談を受けたのは、入会から2年半後のことだった。こうして、建築家との設計が進み始め、すべては順調と思われた。ところが…。
「当社が、建築家の交代を提案しました。その建築家は実績では申し分なかったのですが、Kさんの感性や考え方との間に、微妙なズレがあることを感じ、このままではお互いに満足度がいく建築は生まれないと考えたのです」
 ASJ加古川スタジオの岡本治子さんが、建主と建築家の相性を見極めるのも大事な仕事だと語る。
 その後、Kさん夫妻は、大西さんの代表作である「御領の家」や「赤穂の家」などを見学され、その安らぎの空間に、自分たちの夢を託すことを決められた。

③正面のつくばいが露地(茶庭)を思わせるカフェの入口。
④照明のガラスは作家の手作りで、天井のソケットカバーは東南アジア製の籠をアレンジ。

内装は建築家との共同作品

「御領の家では、長い庇と幅広の濡れ縁、そして庭が一体となっている風景に心が安らぎを感じました」
 Kさんの思いを傍らでサポートされている奥様が、静かに語られる。大西さんは、そんな声にも耳を傾けていたのだろう。ファーストプレゼンは、Kさん夫妻が一度で気に入るものとなった。相性の良さがなせる業なのか、路地風のファサードにつくばい(手水鉢)を置くことは、Kさんと大西さんが同時に提案。また、「坊主カフェ」で画家、佐藤勝彦氏の作品が飾られたコーナーには、お気に入りの李朝家具が、まるで、あつらえたように自然に収まった。
「『コンクリート打放しで和モダンを』とお願いしたのですが、出来上がりは、私が描いていたイメージ以上のものです」
 Kさんの夢の実現にと、大西さんはそれまでの経験を総動員。さらに、自ら部材を探し回り、アイデアを出してメリハリのきいたコスト管理もやってのけた。例えば、木目が出ているコンクリート壁は、型枠の木材の木目を転写する工法によるものだが、大西さんは天然の杉板の代わりに構造材を使用し経費を抑えている。
「窓側のランプは光の繊細な揺らぎが独特の、高価な手作り品ですが、天井のソケットカバーはナッツ類を入れる籠です。私が雑貨店で見つけてきました」
 建築家の遊び心も発揮され、手作り感が残る空間に心が和む。

⑤坊主カフェでは木目が浮き出たコンクリート壁と石庭が絶妙な調和を見せている。

地域のコミュニケーションの場に

リラクゼーションサロンも、コンクリート打放しながら、間接照明やナラ材の床が落ち着いた雰囲気をつくりだしている。個室は壁をスライドさせるとワンフロアーに。
「ヨガ教室のほか、コンサートを開き、その際には、私が法話をお聞かせすることもあります」
 「お寺がサポートする」というキャッチコピーが効いた養生所は、少し形を変えた、お寺ともいえよう。地元の人たちの心の拠りどころとしての役割を、しっかり果たしている。その証拠に、カフェは、集う人たちの要望から、夜には坊主バーになり、地域のコミュニケーションの場になっている。
「お客様からは、とにかく気持ちが和むとおっしゃっていただいています。和になりすぎず、モダンにもなりすぎない、ほどよい非日常が、リラクゼーションや断食のためにお越しくださる方にも好評で、遠方では愛媛から訪ねてくださる方もおられます」
 Kさんがシンボルツリーに選んだのはケヤキの木。その語源は、尊い木という「けやけき木」にある。その成長も楽しみな街角の養生所は、地域のランドマークとして、人々に体をいたわることの大切さを伝えるに違いない。
(取材/香川泰子)

⑥3階の共同住宅は断食のお客様のための宿泊施設に。必要な設備がコンパクトに収まった部屋はゆったりし、断食中の気持ちを落ち着かせてくれる。
⑦リラクゼーションサロンもコンクリートの打放しながら、あたたかみのある空間に仕上がっている。
⑧Kさん夫妻の夢だった養生空間は大西氏との出会いで形になった。

■K・コンプレックスビル

所在地

兵庫県加古川市

主要用途

複合ビル

家族構成

祖母+夫婦+子供3人

設計

大西憲司設計工房
 担当 大西憲司 樋口永
構造 片岡構造 担当 乗本慎策
設備・電気 ユーアイテック 担当 井上正文

施工

ASJ加古川スタジオ[株式会社宍粟住建]
 担当 水野敏行

構造・構法・規模

鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
地上3階  
軒高 8.636m  最高の高さ 9.976m
敷地面積 313.63㎡
建築面積 150.39㎡(建蔽率47.96% 許容60%)
延床面積 352.03㎡(容積率112.25% 許容200%)
 1階  136.26㎡
 2階  130.56㎡
 3階  102.77㎡

主な外部仕上げ

屋根 硬質木片セメント板の上ガルバリウム鋼板長尺タテハゼ葺き t=0.4
外壁 1階、2階 コンクリート打放し、3階 ガルバリウム鋼板 t=0.4 小波張り
開口部 アルミサッシ、スチールサッシ
外構 コンクリート打放し、土間コンクリート 金ゴテ押え

主な内部仕上げ

1F テナント
 床 コンクリート金コテ押え
 壁 コンクリート打放し
 天井 コンクリート打放し
2F 和風Cafe
 床 黒皮鉄板、フローリング(杉板)、カラークリート
 壁 コンクリートラーチ合板型枠打放し
 天井 コンクリート打放し、サツマヨシ合板
2F リラクゼーションサロン
 床 フローリング(ナラ)
 壁 コンクリート打放し、クロス貼り
 天井 クロス貼り 一部 コンクリート打放し
3F 共同住宅
 床 フローリング(ナラ)、長尺塩ビシート
 壁 クロス貼り
 天井 クロス貼り
工事費 約13000万円

工程

設計期間 2014年2月〜2015年5月
工事期間 2015年5月〜2016年4月

撮影

福澤昭嘉(表紙 ①③⑤)
水野真澄(②④⑥⑦⑧)

3階平面
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2階平面
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1階平面 縮尺1/300
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断面図 縮尺1/300
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大西憲司

[大阪市北区]

1948年大阪府生まれ/1971年近畿大学理工学部建築科卒業後、清水和弥設計事務所に勤務/1983年オーク建築研究所入所/1998年大西憲司設計工房設立

 敷地は、JR加古川駅から東へ徒歩10分、巾20m道路の角地に位置する。建物は、1階にテナント、2階に和風Caféとリラクゼーションサロン、3階に共同住宅(1ROOMが4戸)の複合ビル。
 要望は、木の格子や、建物の一部にR(曲線)を取り入れ、シンボルツリーにケヤキを植えた、モダンな和の建築にして欲しいなどであった。植え込みを建物の中心に設け、ケヤキを眺めながら2・3階へと導く。窓際に植えられた竹や建物全体を、Rを取り入れた木の格子で取り囲み、それらがコンクリート打ち放しと調和し、モダンな和の雰囲気を醸し出している。
 広い道路の角地に建ち、建物がどこからも眺められ、時と共に街のランドマーク的な建築になることを願う。

ASJ加古川スタジオ

[株式会社宍粟住建]
スタジオマネージャー:岡本治子
 オーナーのK様と建築家の大西憲司さん、このお二人は、少し遠回りはされましたが、出会うべくして出会ったのだと、この原稿を仕上げながら実感しました。振り返りましたら、1stプレゼンは2013年12月28日。この時の図面と実際の建物は、ほとんど変わっていない。これは相性が良いことの表れだと思います。K様の構想や漠然としたイメージを聞いた大西先生が、その思いを汲み取る――。事業案件(店舗)であるが故に、金額調整に時間がかかることもありましたが、見事にK様にご満足いただける建物に仕上がりました。
 
 K様は、2011年2月20日にご兄妹でイベントに来場され、それぞれご入会されました。妹さんが先にASJのシステムを利用して自邸を建築。その際にK様は、陰ながら妹さんご夫婦を支えていらっしゃいました。仲の良いご兄妹だと、家族愛が垣間見られました。また、K様はご住職をしておられ、ビル2階の坊主カフェで法話をされることもあるとのこと。この方の法話なら聞いてみたいと思うような、温かいお人柄でいらっしゃいます。
 K様と大西先生とともに、この建物の仕事に携われて良かったと実感しております。趣ある建物へと、よい経年変化をさせていくようお手伝いができればと思います。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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