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ASJ Works Close-up

人生を明るく楽しむための自分だけのプライベートハウス

愛知県名古屋市

希望の家

設計 多田博・多田祐子/多田建築設計事務所
施工 ASJ名古屋本山スタジオ[本庄工業株式会社]

玄関から裏庭まで、自転車で土間を通り抜けられる。自転車に乗ったまま、玄関から裏庭まで土間を移動することもあるとか。

 心置きなく過ごせる、自分だけのスペースがほしい。家のなかに書斎を設けたり、リビングの片隅にカウチを置いてパーソナルな場所をつくったりと、その実現方法はさまざまだが、K様が目指したのは自分だけの家。ひとりの女性として第二の人生を歩むための家だった。
 以前よりご主人様と息子さんと暮らす家が市内にあるのだが、その家が家族の持ち物であふれていたことで、K様は常日頃からストレスを感じていたという。そこで、一念発起して家探しをスタートし、やっと巡り合ったのが現在の家だった。
「築50年ほどのボロボロの一戸建てでしたが、丁寧に使われていたことがわかる家でした。何より、天窓から光が降り注ぐ明るいキッチンが印象的で、ひと目で恋に落ちました」

どこか懐かしい雰囲気が漂う、しっとりと情緒ある外観。
before
 

 しかし、そのまま住むのは難があり、建て替えかリフォームの必要があった。そこで、家づくりの情報を集めながら、仕事の合間を縫ってハウスメーカーや工務店に足を運んだのだが、どこからも色好い反応がもらえなかったそうだ。そんなとき見つけたのがASJの建築家展のチラシ。そこで出会ったのが、今回のリフォームの設計を担当した建築家の多田博・祐子夫妻だった。
「多田先生は、どんな突飛な私の希望も真面目に聞いてくださいました。それまでは、どこへ行っても『こんな古い家にお金をかけなくても』とか『女性ひとりですか……』とか言われるばかりで、心が折れかけていたのに。そこで、一番にお願いしたのが、広いスペースでゆったりと過ごしたいということでした」

ワークスペースからキッチン、バスルームまでが、すべてワンルームに。

プラン検討時のスケッチ(多田氏提供)

 工事が始まると、前面道路が狭かったり、構造体がかなり傷んでいたりと、いくつかの問題が浮かび上がったが、それらを乗り越えて2017年4月、希望の家は完成した。
〝広いスペースでゆったりと〟という希望に応えるため、1階も2階も仕切りのないワンルームとし、1階には7メートルもの天板が横たわるワークスペースを中心に、キッチンやバスルームを設けた。それらすべてがひとつの空間に配されており、バスルームは観葉植物でゆるやかに仕切るだけで、トイレまでもがシースルー。ここまでオープンな設計は、ひとり暮らしの住まいならでは。そして、玄関からワークスペース脇を通って裏庭までが土間で繋がっているため、食料や洗剤など、買ったものを前かごに入れたまま自転車でキッチンまで運ぶことも可能なのだ。

1階には土間に浮かぶ島のようなワークスペースが。作業に疲れたら、ベンチで休憩したりと気ままに過ごせる。

2階は大きなミラーのあるトレーニングルーム。奥に見えるのが1階へと降りる滑り棒だ。

 2階はトレーニングルーム。看護師として病院に勤めるK様は、「体は甘やかしちゃダメ。適度な負荷を与えないとなまっちゃう」とエクササイズに励むこともあるとか。しかも2階から1階へ、瞬時に降り立つことのできる滑り棒も設置。実際に2階から軽々と滑り降りてくださったK様は、とても楽しそうだった。
 ほかにも、大好きな漫画を読むため、土間の壁に収納可能なチェアを用意したり、懸垂ができるように浴槽の上に吊り輪を取り付けたりと、遊び心あふれる仕掛けが満載だ。
「この家は、明るく生きていく希望をくれました。いま、とっても幸せなんです。今回巡り合った皆さんが協力してくださったからこそできた家なので、とても感謝しています」
 そう話すK様を、天窓からの柔らかな光が照らしていた。まるで、これからの人生を映すように。

(取材/吉田桂)
以前の部屋の入り口を利用して、読書もできる個室に。
2階から1階へは滑り棒で降りることも可能。
バスルームには筋トレ用の吊り輪を設置。
中庭では植物もすくすく育ちそう。
土間の本棚に収納してある漫画を土間で読む、なんてことも。

■希望の家

所在地

愛知県名古屋市瑞穂区

主要用途

専用住宅

家族構成

1人

設計

多田博・多田祐子/多田建築設計事務所

担当 多田祐子

施工

ASJ名古屋本山スタジオ[本庄工業株式会社]

担当 中川稔之

構造・構法・規模

木造在来工法

地上2階 リノベーション

軒高 6,000mm  最高の高さ 7,500mm

敷地面積 76.1㎡

建築面積 43.2㎡(建蔽率56.7% 許容60%)

延床面積 72.0㎡(容積率94.6% 許容200%)

 1階  43.2㎡

 2階  28.8㎡

主な外部仕上げ

屋根 瓦葺き

外壁 木板及び鋼製波板張り

開口部 木製建具

外構 コンクリート打ち

主な内部仕上げ

土間

 床 墨入りコンクリート金ゴテ

 壁 ラーチ合板 プラネットカラー塗装

 天井 ラーチ合板 プラネットカラー塗装

居間

 床 ナラフローリング

 壁 ラーチ合板 プラネットカラー塗装

 天井 木格子+カーボグラス

水間

 床 モザイクタイル

 壁 モザイクタイル

 天井 木格子+カーボグラス

広間

 床 ナラフローリング

 壁 ラーチ合板 プラネットカラー塗装

 天井 既存天井 AEP

工程

設計期間 2016年6月〜2016年12月

工事期間 2017年1月〜2017年 4月

撮影

土居麻紀子

7mのカウンター内に洗濯機、キッチン、下足入れなどを内蔵。 食事や作業が効率よく行える。
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after 1階平面
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after 2階平面
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before 1階平面
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before 2階平面
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多田博

[神奈川県藤沢市]

1960年東京都生まれ/1978年関東学院大学工学部建築学科卒業後、株式会社GS建築研究所に勤務/1990年株式会社日総建入社/2001年多田建築設計事務所共同主宰

多田祐子

[神奈川県藤沢市]

1968年福岡県生まれ/1992年神奈川大学工学部建築学科卒業後、株式会社日総建に勤務/2000年多田建築設計事務所設立

 子育てがひと段落し、女性として第2の人生を歩むための住まいです。家族と暮らすための家の他に、自分だけのお城を作りたい!というかねてからの夢。自己実現のための住まい。
 ある時、築50年ほどの木造住宅を購入され、既存建物を新築するかリノベーションするか迷われていました。女性独りでの相談では誰にも相手にされず、半ば諦めの境地。前面道路が2mほどしかなく、間口も5mほどで、工事も難しいため、金額も高めになります。不安がいっぱいのところにご縁をいただき、お話を伺いました。すぐに現地を調査し、リノベーションという結論に。
 プランニングが始まると、これからの生き方や今まで思い描いていた構想などお伺いしながら、建主も設計者も施工者も皆でワクワクしながら進みました。工事中は、構造体がかなり痛んでいることが分かり、鉄骨や金物で補強をするなど、三者一丸となることで、問題を一つ一つ解決していきました。
 1階はカフェのような土間スペース。家の中を自転車で裏庭まで突き抜けることができます。また、かつては部屋であったところに外部中庭を作りこみ、ガラスの隔てのみのシースルーのトイレを設けました。土間の真ん中には島のようにワークスペースとシンクのみのキッチンを7mのタモの無垢板で作り、奥行きを強調することで、広がりを作りました。その奥には隔てのない浴槽。Kさんの体形にぴったりのサイズになっています。そして2階には鏡のあるトレーニングルーム。ここから1階へは「滑り棒」で降りることができます。ひとりで住むため解放感満載。このように一切の既成概念を取り払った住まいは、彼女の希望と共にさらに進化し続けることになるでしょう。名古屋を訪れた際、お伺いするのが設計者として楽しみのひとつです。

ASJ名古屋本山スタジオ

[本庄工業株式会社]

エンジニア:中川稔之
 着工前はもちろん、工事中も完成した建物の姿を想像することができませんでした。失礼ですが、狭くて薄暗く古い住宅が、こんなにも明るく広がりのある空間、「希望の家」に生まれ変わるのだと理解したのは、竣工間近のことです。
 K様との出会いは、弊社の第1回建築家展です。建築家の多田先生と意気投合されリノベーションの打ち合わせが始まりました。K様の感性を多田先生が十分に汲み取られていることは同席していて理解していました。
 ファーストプレゼンテーションを見て私は驚きました。例えば、「浴室は囲われていないといけない」という私の既成概念を打ち砕くものでしたが、K様は全く動じることがありませんでした。一般的にお客様が求められる機能性や快適性を提案されるのではなく、お客様のご要望はひとそれぞれであり、多田先生の提案はK様のご要望、感性に合わせたモノだったから、すんなりと受け入れられたのだと思います。開放感のある空間が、心の解放をもたらすとか…。
 そのような打ち合わせは、感性のすりあわせと信頼の積み重ねだったのでしょう。工事中の想定外の出来事にも、お客様と多田先生からご理解とご協力をいただき、無事竣工に辿り着くことができました。
 工事中に、傷んだ躯体の補修・補強などに腐心したことなどは、完成した建物が新たに手に入れた価値観を思えば、大したことではありません。30年近く建築の現場を経験してきましたが、素晴らしい作品に携わることができ、K様と多田先生に感謝しています。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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