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ASJ Works Close-up

阿蘇南外輪山の特等席寺院の様式美を受け継ぐ「和」の家

熊本県上益城郡

眺望の家

設計 平田大和/ろく設計室 一級建築士事務所
施工 ASJ阿蘇・熊本スタジオ[株式会社江藤社]

格子のデザインが美しいS 邸。両引分けの玄関扉からリビングの窓まで一直線に風が抜けて行く。

眼前の道路から見上げるS 邸。「日が暮れて家に戻ると、大きな窓から灯がもれて、家が輝いて見えるんですよ」とS さん。①

 九州のど真ん中。阿蘇南外輪山に連なる標高約六百メートルの高原に、S邸は建つ。隣接する寺院の風格にも遜色ない、趣ある玄関扉を開けると、新婚ほやほやのSさん夫妻の笑顔が待っていた。「ようこそ。どうぞおあがりください」。靴十数足をも並べられそうな長い上がり框をのぼり、真っ先に視線が向かうリビングの窓の先には、目前の庭の芝生と、遥かに宮崎・五ヶ瀬を望む雄大な景色が広がっている。まるで一枚の絵のようだ。『眺望の家』の取材は、開け放たれた大きな窓から吹き抜ける風の音と、時折聞こえてくる鳥のさえずりをBGMに進んでいった。
 Sさんの家づくりは、ASJ阿蘇・熊本スタジオの開設がきっかけだったという。「家を建てる気は、まだまったくなかった(笑)」Sさんは二〇十一年十一月、もともと地元の知り合いでもあったスタジオ社長に誘われてスタジオ初の建築家展を訪れ、建築家による設計プランやローンの試算を聞くうちに、「三八歳(当時)のいまが建て時だ」と思いが定まった。「まず、スタジオの新築物件〝第一号〞に心引かれましたし、何より、地元の材料や職人さんを大切にする同スタジオの信念を知り、安心して任せられると感じました」と話す。 設計に関して、Sさんが一貫して求めたのは「和」を基本としたシンメトリー(左右対称)なデザイン。この地で長い歴史のある浄土真宗本願寺派寺院で生まれ育ち、僧籍を持つSさんにとって、お浄土の写しとされる本堂の左右対称な荘厳さは、美学でもあり、身に沁みた味わいでもあるのだろう。スタジオから紹介された平田大和さんは和のスタイルを得意とする建築家。そんな平田さんも、「瓦屋根」「平屋造り」「オモテとウラのない家を」との追加リクエストに、「これほど統一感のある要望は初めてでした」と振り返る。 平田さんはそれらに応え、玄関の扉に左右に開く引き分け戸を採用するなど多くのデザインをシンメトリーとし、勾配天井や間接照明を多用して、「和」ならではの柔らかく穏やかな光を紡ぎだした。同時に平田さんとスタジオは、Sさんに具体的なイメージを持ってもらうため、平田さんの福岡における物件や家具店などを何軒も「引っ張り回した」という。懐かしむSさんは「スタジオと平田さんと私。思えば男性ばかりでいろいろな所へ出歩いて進めた家づくり、楽しかったですね」としみじみ。また、通常〝裏〞に配置される間取りが置かれた玄関側の外観には、京町家を思わせる格子が張られ、正面に見せる工夫が施されてい
る。

玄関に入ると真っ先に目に飛び込んでくるリビングの窓。勾配天井によって視線が集中し、景色がまるで一枚の絵のようだ。②

平田さん設計のオープンハウスへ、家具店へ、と共に奔走した3 人はとても仲良し。③
取材当日はあいにくの雨にも関わらず縁側へ顔を出してくれたS 夫妻。④
十数足もの靴を並べられそうな長い上がり框。⑤

 着工は翌年四月。S邸はもともと納屋のあった場所に新築をしたため、その解体作業には多くのご近所さんが手伝いを買って出てくれた。竣工の「お披露目会」には六十人以上の方がお祝いに駆けつけたという。「子どものころからお世話になっている皆さんが一堂に会してくださって。新築の家を前に、『一人前』になった気がして胸が熱くなりました」とSさん。
 そして同年、Sさんは妻Nさんと知り合い、結婚。夫妻に家のお気に入りの場所を尋ねると、双方から「リビング」と仲睦まじい答えが返ってきた。妻Nさんが「ソファに腰掛けて、穏やかな風を感じるひとときが大好き」と話すと、Sさんも「一日じゅうでも転がっていられますよ」と口をそろえる仲の良さ。夫妻にはこの秋、もう一人家族が増える予定だ。「まだまだ」だと思っていたことが、ASJのイベントをきっかけに家づくり家族づくり未来づくりへ――。Sさん家族の人生の見通しは、この『眺望の家』からますますひろがってゆくに違いない。
(取材/坂口紀美子)

キッチンからリビング、和室を望む。段差が少ないため膝の悪いS さんの母親も過ごしやすいと喜ばれているそう。⑥

阿蘇の厳しい冬も、玄関及び窓側全面を覆う内障子と「サーマスラブ」で寒さ対策は万全。⑦
天井と床の色が揃えられ、落ち着いた雰囲気の和室。和室へ上る段は簡易な椅子にもなり、絶好の歓談の場となる。⑧
京町家風の格子で飾られたS 邸外観。S さんはおどけて「小料理屋さんみたいでしょう」と笑う。⑨
ダイニングキッチン。夫妻はよくこの位置でいろんな話をするそうだ。⑩
「設計図の“子供部屋”をみて、結婚もしてないのに、とネタにされたよね(笑)」設計当時の思い出に花が咲く。⑪
和室でくつろぐS 夫妻。室内には、8 月の結婚式で展示した品々が飾られていた。⑫
階上部分。設計上は子供部屋だが、しばらくは1 階部分で生活するそう。⑬
本堂側から望むS 邸夕景。⑭

■眺望の家

所在地

熊本県上益城郡

主要用途

専用住宅

家族構成

夫婦

設計

平田大和/ろく設計室 一級建築士事務所

施工

ASJ阿蘇・熊本スタジオ[株式会社江藤社]
設備 田上設備
電気 山中電気
外構・造園 株式会社江藤社
サーマスラブ サーマエンジニアリング+山中電気

構造・構法・規模

木造
地上2階 
軒高 5,068mm 最高の高さ 6,090mm
敷地面積 794.06m2
建築面積 126.96m2(建蔽率15.98% 許容 60%)
延床面積 142.43m2(容積率17.93% 許容200%)
 1階  112.62m2
 2階   29.81m2

主な外部仕上げ

屋根 石州瓦葺
外壁 無塗装サイディングの上リシン+超低汚染クリア吹付
開口部 リクシル サーモスS
外構 ウッドデッキ ヒノキ 
   ヒバ材自然塗料塗り+ガードラック塗装

主な内部仕上げ

リビング
 床 ムアガ無垢フローリング+蜜蝋ワックス
 壁 クロス貼り
 天井 杉ムク材+木材保護塗装
ホール
 床 ムアガ無垢フローリング+蜜蝋ワックス
 壁・天井 クロス貼り
個室
 床 複合フローリング
 壁・天井 クロス貼り
和室
 床 和紙畳
 壁 クロス貼り
 天井 杉ムク材+木材保護塗装

工程

設計期間 2011年11月~2012年4月
工事期間 2012年 4月~2012年8月

撮影

坂口紀美子(③④⑤⑩⑪⑫)
針金洋介(TechniStaff)(表紙 ①②⑥⑦⑧⑨⑬⑭)

A-A'断面図
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B-B'断面図
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C-C'断面図
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D-D'断面図
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2階平面
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1階平面 縮尺1/200
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平田大和

[福岡市西区]

1972 年福岡県生まれ/ 1995 年九州産業大学建築学科卒業/ハウスメーカー、商業デザイン事務所を経て2005 年architect toybox(アーキテクト トイボックス)設立/ 2014 年株式会社ろく設計室 一級建築士事務所に法人化

眺望の家
 
 大いなる自然に囲まれたその敷地は、山の中腹に位置しています。
 東に緩やかに傾斜した眼下にはとても素晴らしい景色が広がっていました。しかも同じ敷地内に、築300 年を越えるであろう木造建築のお寺と庫裡そして納屋が建っていてしっくりと風景に馴染んでいます。
 この自然の調和を壊さないように、今回はこの納屋を取壊して副住職と将来のご家族、そして住職ご夫妻の為のおうち作りというご相談でした。
 実際にそこに立ってみると、あまりの眺望の良さにうっとりしました。
 この眺望を最大限に活かした上で、建物をいかに自然の一部として風景に溶け込むようにするか! がテーマとなりました。
 その為に、外観の計画の際は極力建物高さを抑え、デザインも極力和をモチーフにしています。また、東側の眺望を際立たせる為に南面に居室の開口部を一切設けないという通常では考えられない提案をしていますが、越屋根のハイサイドライトと東のパノラマウインドウからの自然光で十分な明るさを確保しています。
 空調計画では、ここの標高ならではの気候の特長をお聞きして、エアコンは設置せず代わりにサーマスラブという基礎蓄熱型の全館暖房システムを採用しています。
 それと併用して、Low-e ペアガラス、内障子を採用することで開口部からの冷気の進入と視線のカットをし、過ごし易い住環境を実現しています。ASJ 阿蘇・熊本スタジオさんと二人三脚で作り上げたこのお住いは、風景に溶込み、季節の眺望を末永く楽しめる建築と成ったのではないかと思います。

ASJ 阿蘇・熊本スタジオ

[株式会社江藤社]

スタジオマネージャー:田中達磨
 S 様とは、以前より同じ地区の先輩としておつきあいをさせていただいておりました。当スタジオ開設準備中に新築のご相談もありましたので、当スタジオのオープニングイベントにご案内し、来場されアカデミー会員に入会していただきました。数日後プランニングコースをスタートすることになり、まずはS 様のご要望をお聞きし、その内容をSV(ASJ 本部のスーパーバイザー)に相談しながら建築家の選定を行い、年代の近い平田先生に設計をお願いすることになりました。
 S 様のご要望は、シンメトリー(左右対称)と寒くないこと、それと瓦葺というシンプルなものでした。阿蘇の地は冬の寒さが厳しく、夏は過ごしやすい土地柄からご両親にいい環境を作ってあげたいという気持ちがあったそうです。そこで、サーマスラブ(土壌蓄熱式暖房)をご提案し冬の寒さ対策をしました。ご両親にも喜んでいただいています。
 ファーストプレゼンでは、平田先生がご提案になったプランに大変喜んでいただきました。その後、お打ち合わせを経て工事着工となりました。工事期間中は近隣の方々には大変お世話になり、時には片付けなどお手伝いしてくださいました。まさに地域の皆様と一緒になって建てた様な物件でした。そして奥阿蘇の土地に落ち着いた雰囲気のご自宅が完成し、無事にお引渡しをしました。やはり、こちらでは建築家の設計した建物はあまりなく、オープンハウスの際には多くの皆様にご覧いただきました。
 イベントの際には、施工事例として「眺望の家」のパネルを掲示させていただいておりますが、いろんな方に実際に建物を見てみたいなど、高評価を受けております。今後、このような家づくりをするためにもクライアントと建築家とのコミュニケーションがとれるようにスタジオ側としてもいい雰囲気作りが必要だと思っております。

この記事は、ASJの会員向け会報誌「A-Style Monthly」に掲載されたものです。

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